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少ない労力でより多くの成果を:リーンマネジメントが導くGEの針路とコロナ禍の乗り越え方

サム・ウォーリー

1970年代、マサチューセッツ工科大学の研究者チームが日本を訪れ、日本の自動車メーカーがなぜデトロイトの米国自動車メーカーよりも短時間で自動車を生産できるのか、その理由を調べました。そして調査の末にたどり着いたのが、安全性、品質、効率を向上させ、ムダを省き、より少ない資源で付加価値を高めることに重点を置いた経営理念である「トヨタ生産方式」だったのです。

アメリカに逆輸入されたトヨタ生産方式は「リーン(lean)方式」と呼ばれるようになりました。その名が示すとおりに「ムダをそぎ落として引き締める」方法は結果を出し続けており、今でも多くのビジネスリーダーがこの方式の信奉者として知られています。2018年10月にGEの会長兼CEOに着任したH・ローレンス・カルプJrもその一人で、継続的な改善システムであるリーンマネジメントをGEの経営再建の中核に据えています。GEデジタルでリーン&オペレーション部門のシニアバイスプレジデントを務めるベッツィー・ビンガムは次のように話します。「リーンは私達の戦略であり、経営手法でもあります。成長に向けたカギなのです」

リーンはすでにGEの中で成果を上げ始めていましたが、新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、物事を体系的に考えることと機敏なマネジメントがこれまで以上に重要になると、さらにその真価が問われることになりました。GEが現在の路線を進んでいく上でリーンがどのような役割を果たしてきたか、実例をいくつか紹介します。

ミシシッピ・モデル


トップ画像および上部画像:ミシシッピ州ベイツビルのGEアビエーションで、マイケル・ロビンソンとそのチームは、リーンマネジメントを採用して損失を60%削減し数百万ドル相当のムダを削りました。画像提供:GEレポート

ミシシッピ州ベイツビルはテネシー州との州境のすぐ南にある町で、かつては河川水運や鉄道輸送が盛んでした。しかし今ベイツビルの経済を支えているのは、これまでとは違った交通手段です。人口7,200人のこの町に、2008年に世界で最も強力なジェットエンジンであるGE9Xをはじめとする最新かつ低燃費エンジンの部品を製造するGEアビエーションの工場が設立されたのです。しかし、空の旅の未来を支える力としてはまだ不十分でした。航空時代の要求に応えるために、最新の設備で生産を拡大することは、全く別の課題でした。

2018年にマイケル・ロビンソンが工場長に就任した時、工場の作業は予定よりも遅れており、製造時の欠陥が増加していました。ロビンソンはトヨタでリーンを学んでいたため、工場のオーバーホールが必要だと気付きました。そこで、主要なエンジンラインを1週間停止させた後、リーンの原則に従って、工場のオペレーションを編成し直したのです。こうして、この工場は2019年末までに損失を60%削減し、数百万ドル相当のムダを削ることができました。しかし、ベイツビルのチームの仕事はまだ終わっていません。リーンとは、それ自体が目的なのではなく継続的な改善のシステムだからです。

ロビンソンはその後、オハイオ州エベンデールにあるGEアビエーション本社に移り、GEnxの生産にリーンを適用しています。GEnxは、人気のボーイング787ドリームライナーのために開発した燃費の良いパワフルなエンジンです。

絡まった糸を解きほぐす

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「問題が発生しても、それに対処しなければそのことに慣れてしまって関心を持たなくなります」とGEのオペレーションマネジメント部門リーダーシッププログラムに参加するエンジニアであるナタリー・デニーは述べます。「しかしこのリーンの手順では、問題が発生したらチームがすぐに対応します。こうすることで改善するために多くの提案が出されるようになります」画像提供:アンドルー・ロバートソン(GEレポート)

1969年にGEは天然ガスを燃焼させて発電する巨大なタービンの製造のためにサウスカロライナ州グリーンビルに進出、その後半世紀にわたって目覚ましい成功を収めてきました。数年前には、工場は150万平方フィート(約14万㎡:東京ドームが約5万㎡)にまで拡張され、生産されるHAクラスのタービンは効率の面で世界記録を更新してきました。しかしその後は需要が一時的に途絶え、グリーンビルは使い道のない部品を数百万ドル分も抱えたままとなります。しかも、タービンの製造には時間がかかり過ぎるということがさらに問題を悪化させたのです。「私達には大変な重荷となりました。」とGEガスパワーのエグゼクティブであるジョン・ブーシェは述べます。しかし、ブーシェには状況を元の軌道に戻すための秘策があったのです。

グリーンビルでは、リーンの導入は「バケット」から始まりました。これはブーシェが「タービンの心臓部」と呼んでいるタービンブレードにつけた名前です。工場がどのように動いているのかを包括的に把握するために、ブーシェたちは折りたたみテーブルを何脚も並べ、その上に縮尺模型を作りました。そして、糸を使って「バケット」の旅の始まりから終わりまでを追跡しました。その結果、工場の中を85日間かけて3マイル(約5km)も移動していたことがわかりましたが、それはまるでスパゲティを入れたボウルのような有様でした。では、何をすべきか?このスパゲティを解きほぐすのです。今度は「バケット」の移動距離がわずか165フィート(約50m)になり、時間も短縮されました。この改善により、チームはHAタービンの生産時間全体を半分近く短縮することができたのです。

さらに、新型コロナウイルスは新しい問題を引き起こしました。ソーシャルディスタンスをとらなければならないのに、グリーンビルやその他の場所にいるチームのメンバーは、リーンアクション・ワークショップのような重要な手段を中断させないためにどのようにすればいいのでしょうか。このワークショップは通常、プロセスや設備、考え方の定着や改善を目的として、1週間にわたって人が集まらなければなりません。リーンをオンラインに適応させる方法に関して、GEガスパワーのグローバル・サプライチェーン担当バイスプレジデントのリチャード・シンプソンとGEパワーのグローバル・リーンリーダーであるカレン・ホイルが、LinkedInでこの取り組みを振り返っていました。「環境も、コスト・プレッシャーも、パンデミックも関係なく、私たちは前進し、リーンに対応して、問題解決能力を改善し続けることに全力を尽くします。」

バーチャル・リーン方式


GEデジタルでリーン&オペレーション部門のシニアバイスプレジデントを務めるベッツー・ビンガムとそのチームは、オフィス内でのプロジェクト管理やソフトウェア開発などの問題についてもリーン方式を採用しています。画像提供:GEレポート

今年3月、普段は電気を届けるために世界中の電力会社やその他の顧客の近くで働いているGEグリッドソリューション事業部の担当者たちが、リーン方式に関連したワーキングセッションのためにフロリダに集合することになっていました。GEはベイツビルやグリーンズビルなどの工場の生産ラインを改善するためにリーンを適用していますが、オフィス内でのプロジェクト管理やソフトウェア開発などの問題についてもリーンは有効であることがわかっていました。しかし、参加者がフロリダに集まる前に問題が発生しました。新型コロナウイルスのパンデミックとそれに伴うロックダウンにより、参加者が集まることができなくなったのです。リーンはオンラインでも機能するのでしょうか?

多くの人々が同じ部屋に集まって仕事をするときの問題解決能力のことを考えると、これはジレンマでした。GEデジタルのポール・スロウプはバーチャル会議について「メンバーの創造性と問題解決能力を十分に活用し、そのアイデアや考え方を引き出す」方法を見つける必要があると話します。そこでスロウプたちは、バーチャルでの協力を容易に行うために、ホワイトボードソフトウェアを採用しました。課題はあったものの、オンラインによるこの方法が驚くべきメリットをもたらすことにすぐに気が付きました。「フィジカルなイベントをここまで簡単に拡大することは、これまでなら絶対に無理でした。」とスロウプは述べています。顔を合わせてのミーティングが再開された時、スロウプたちが発見したバーチャルツールのおかげで、これまでとは異なるより良いミーティングになることでしょう。

リーン方式で迅速に対応


アンジー・ノーマンは、刻々と状況が変わるような環境でも落ち着いています。GEのリーンマネジメントの専門家として、複雑な問題を迅速に解決するために、持っている知識を駆使しています。なおこの写真は、新型コロナウイルスのパンデミック発生前に撮影されました。最上部画像および上部画像提供:GEアビエーション

アンジー・ノーマンは、刻々と状況が変わるような環境でも落ち着いています。GEのリーンマネジメントの専門家として、複雑な問題を迅速に解決するために、持っている知識を駆使しています。今年3月に、GEヘルスケアがパンデミック発生中でも患者にサービスを提供できるようにするため、何千台もの医療用モニターを記録的な速さで組み立て、付属品を取り付けなければならなかった時には、この仕事を任せるのにうってつけの人物でした。このモニターは心拍数などのバイタルサインを追跡するもので、医師や看護師にとって患者を治療する上で欠かすことができません。わずかな時間しかない中での複雑な作業でした。


ノーマンの所属は、GEヘルスケアではなくGEアビエーションです。しかし、ここで重要なのは、ノーマンが持っているリーンの専門知識でした。ノーマンは当面の問題にとりかかりました。英国チェルトナムにある普段は航空機のパワーシステムを製造するGEアビエーションの工場に、モニターを組み立てるスペースを確保しました。そして、先頭に立って作業員の訓練を行い、チームと一緒に計画を立て、すぐに一日2交代制でモニターの組み立てを始めました。最初の製品の出荷準備は5月初めに整いましたが、それはプロジェクトがスタートしてからわずか6週間後のことです。「実行するための計画と実行するためのチームワークが重要です。」とノーマンは述べています。「共通の目標を持つことがどれほど力になるかということを証明しています。」

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