ロゴ

ダイレクトに回収:GEリサーチが大気中のCO2を回収する“直接空気回収技術”に本格着手

グレガー・マクドナルド

現在、発生したCO2をどのように削減するかはすでに大きなプロジェクトとして確立しています。ですが、過去に排出されたCO2に対する取り組みは十分と言えるでしょうか。産業革命以来、人類は世界中でCO2を排出し続けており、大量のCO2は太陽光発電や電気自動車が普及したところで消えてなくなるわけではありません。過去に排出された、いわゆる「レガシーCO2」に対処する新たなアプローチとして「ダイレクト・エア・キャプチャー(以下DAC)」という技術があります。DACは巨大な空気清浄機に似た役割を果たし、すでに大気中に排出されたCO2を回収・圧縮して地中に埋めたり、SAF(持続可能な航空燃料)やコンクリート、石油化学製品、プラスチックなどに利用するための技術でもあります。

GEはエアフロー技術、熱管理、材料科学の分野で蓄積してきた知見を活かし、DACをめぐる開発競争にに参戦します。その一環としてGEリサーチは、独自の吸着剤に基づくDACシステムをテストし、テクノロジーをより高度なレベルにスケールアップするための準備を進めています。GEリサーチのカーボンキャプチャー技術リーダーを務めるデビッド・ムーアは次のように説明します。「まだこのプロジェクトの中で大きなマイルストーンを一つ通過したにすぎませんが、スタートから素晴らしい結果を得ています。私たちは来年から始まる新たなテストのために、既存のモデルと比べて20倍以上となる巨大モデルシステムを投入する予定です。」

GEがこの独自のDACソリューションを追求することは、これまでDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)と共同で実施した取り組みの成果を延長させることでもあります。DARPAと協力してきた技術には、乾燥した砂漠の空気から水分を回収する技術が含まれており、この技術が空気中からCO2を回収するDACテクノロジーにも役立つのです。ムーアは次のように説明します。「DARPAの(大気から水を抽出するプログラムの一環である)『AIR2WATER』プロジェクトは、このテクノロジーの大部分の基幹技術の起点でした。私たちは、当初からシステムの基幹部分を提案してきましたが、それをさらに磨き上げ、進化させ、直接空気から回収できる段階まで持ってきたのが最新のDACなのです。」GEは米国エネルギー省のARPA-E(エネルギー高等研究計画局)のエネルギー部門やFECM(化石エネルギー・炭素管理局)とも連携し、さまざまなCO2除去技術におけるブレークスルーを加速しています。GEがCO2管理においてフォーカスする分野は2つあります。1つ目はこのDAC技術であり、世界中の天然ガス等を燃焼するコンバインドサイクル発電所向けのCCS(炭素回収・貯留)ソリューションを開発することが2つ目です。これらのテクノロジーはいずれも長期的な気候変動対策に欠かせません。

国際エネルギー機関(IEA)によると、DAC技術を利用する施設数は現在、世界でもわずか18のプラントにとどまっています。これらのプラントはいずれも非常に小規模で、合計で年間1万トンのCO2が回収可能な水準に過ぎません。IEAが掲げる2050年のCO2ネットゼロ排出目標を達成するために、DACは2030年までに年間6,000万トンのCO2を回収する規模に拡大する必要があります。しかし今、直面している大きな課題はコストです。ムーアによると、現在稼働中の施設のDAC技術では、1トンあたり500〜1,000ドルのコストでCO2を回収します。また別の試算でも、たとえば世界資源研究所(World Resources Institute)のものでは、1トンあたり250ドルから600ドルのコストがかかるとされています。このように高コストになる理由は様々ですが、DACが新たな技術であること、4千トンのCO2回収というスケールでしか実績がないこと、そしてこの技術が普及し始めたときに予想されるコスト削減の恩恵がまだ実際の効果として現れていないことなどが挙げられます。

GEのDAC技術を進展させる原動力はClimate Action @ GE (CAGE) Labが生み出すイノベーションです。このラボはGEリサーチの卓越したR&D施設であり、気候変動対策に向けたCO2回収と多くの関連技術の発展をすすめています。また、ラボでは機械学習(ML)も活用し、万華鏡のように吸着材の組み合わせを何通りも考え、CO2を回収するのに最適な化学物質を生み出すことができます。ムーアはこうした作業をケーキミックスの最適な配合を見つけ出すまで何度も何度も試作を繰り返すようなものだと話します。GEは開発中のDACモデルにおいて、これらの実験から最も高効率なものを選び、熱交換器の表面積を広く覆うようにコーティングしました。合成吸着剤と呼ばれるこのコーティングの上を空気が通ると、スポンジのような役割を果たします。まずCO2を「吸着」し、DAC装置の他の部分で「脱着」して、貯蔵・利用可能な状態のCO2を生成することができます。

GEは、小規模な実験室レベルから始めて世界有数の生産レベルにまで引き上げる数多くのソリューションを築き上げてきた長い歴史があります。ムーアは次のように説明します。「この創造的なプロセスのことを、GEのエネルギー事業ポートフォリオであるGE Vernovaの同僚たちは『パウダーからプラントへ』と呼んでいます。つまり、オングストローム・レベルのもの、つまり分子から始めて、最終的には何エーカー(1エーカーは約4,050平方メートル)もの面積を占めるプラントにまで大きく育ててきた歴史を意味します。GEリサーチには50名以上の人材が所属しており、DACテクノロジーを追求するほか、ガスタービンの排ガスからCO2を回収する燃焼後回収や、空気中からの水分抽出にも携わっています。さらに、外部とのパートナーシップ、たとえば学術界や産業界のパートナー、エネルギー省との関係を強化していきたいと私は考えています。コラボレーションのもたらす力をさらに深く追求したいのです。ひとつの村のように、たくさんの人々の協力が必要です。」

GEは来年、より大型のDACモデルを使用し、スケールアップした実験に着手します。そして、世界各国と共にCO2の回収コストを1トンあたり100ドルにするという究極の目標を目指します。このコスト値は、米国エネルギー省が2021年に立ち上げたコミットメントである「カーボン・ネガティブ・アースショット(Carbon Negative Earthshot)」において「ギガトン規模で」CO2を除去するという意欲的な目標の一部として挙げられているものです。ちなみに、同エネルギー省は大気中から除去される1ギガトンのCO2は米国内の自動車2億5千万台分の年間排出量に相当すると説明しています。

100ドルという価格水準は偶然ではありません。これは、産業用途で使用されるCO2を購入するために世界の産業界がすでに支払っている価格とほぼ同じです。つまり、将来的に設置されるDAC設備群が、まるで大きな発電所のようにいくつものファンが高い壁のように並んで構成され、1トンのCO2を市場価格に近い価格で生産できるようになれば、採算性も確保できることになります。このようなシナリオが実現すれば、世界は新たなCO2排出を抑えられることが可能になるだけでなく、過去に排出されたCO2を削減し始める可能性も出てくるのです。

 

トップ画像: ニューヨーク州ニスカユナのGEリサーチ・キャンパス内にあるGEのCAGE(Climate Action @ GE)ラボで、GEのカーボンキャプチャー・ブレイクアウトチームを構成する50名以上の科学者やエンジニアのうち5名が、最初のDAC試作機のテストを成功させたときの様子。このラボは、脱炭素テクノロジーに対するGEの揺るぎないコミットメントを表象する代表的研究拠点となっています。画像提供: GEリサーチ

メール配信メール配信