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デジタルの風:スーパーコンピューターを活用して洋上風力発電の気流を捉える

ブレット・ネルソン

米国エネルギー省(DOE)オークリッジ国立研究所(テネシー州オークリッジ)にあるスーパーコンピューター「Summit」(サミット)は、理論上のピーク性能として地球の全人類が305日をかけて行う計算を1秒で実行することが可能です。この恐るべき計算処理能力は、激しい海風が頑丈な洋上風力発電用タービンに及ぼす影響といった非常に複雑なシステムのモデルを作成する際に大いに役立ちます。

次世代の風力タービンの設計方法を模索していたGEリサーチのエンジニアは今年8月、米国エネルギー省から「Summit」を利用して独自に考案したコンセプトを試す許可を得たことに大喜びしました。特に希望していたのは、沿岸地域に出現する下層ジェット気流(low-level coastal jets)と呼ばれる気流の解析で、複数の大規模洋上風力発電所の建設が計画されている米国北東沿岸沖の大西洋に吹く強風もその一つです。

グラニュラーコンピューティング解析でこの突風を調べたところ、過剰な負担をかけることなく最適な方法でタービンからより多くのエネルギーを回収するとともに、信頼性の改善、保守費用の削減、再生可能エネルギーへの段階的な転換を促すことも可能であることがわかりました。2030年までに陸上/洋上風力発電は米国の総発電量の2割を占めるようになると米国エネルギー省が予測していることからも、こうした解析は非常に重要であると言えます。

オークリッジで実施されるこの1年間の研究プロジェクトは、「Advanced Scientific Computing Research Leadership Computing Challenge/ALCC」と呼ばれる米国エネルギー省のプログラムの一環として実施するものです。GEのエンジニアは連邦政府研究者と共同で、風の流れを解明し、風力発電所全体に与える影響を算出するため、スーパーコンピューターを活用したモデルを開発する予定です。

沿岸地域の下層ジェット気流は現時点で十分に解明されていませんが、制御することが難しい気流であるため風力発電業界から高い関心を集めています。通常の大気条件では、風速は地面から遠ざかるほど早くなりますが、下層ジェット気流は、地面から離れるほど一旦は速度が上がるものの、最高風速に達した後は高度が上がるにつれ速度が落ちます。風が陸から海に向かって吹くことがその理由ではないかというのが多くの科学者の見解です。沿岸の風は、陸上では地面の摩擦力に対抗しなければなりませんが、比較的表面が滑らかな海に吹き込むにつれて加速する場合もあるのです。

風力発電所全体に対する下層ジェット気流の影響を把握することは、気流をより詳細にかつ大規模にモデリングすることを意味します。一つ一つの風力タービンがジェット気流に影響を及ぼしていて、方程式にある程度のエントロピーが含まれるため計算は非常に複雑になります。この数学的な組合せは、最新のゲーム機Xbox Oneの15万台以上という非常に強力な演算処理能力をもつ「Summit」のようなスーパーコンピューターが必要となります。「スーパーコンピューターを利用すると、一つのブレードに風がどのように吹き付けているかということに縛られなくなります。」とGEリサーチで主任空気力学エンジニアを務めるジン・リー(Jing Li)が説明します。「ひとつの大規模風力発電所にある(数百とはいわずとも)数十個のタービンについて情報をまとめて得ることができますから。」

リー率いるチームは、国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が「Atmosphere to Electrons (A2e)」と呼んでいる進行中の研究プロジェクトで開発した高度なモデリング技法を採用する予定です。A2eの核となる概念は、異なるスケールをもつこの地球を正確に分析するためには、スケール別に異なるモデルが必要であるという考え方です。「最も広範囲なモデルは気候モデル(climate model)で、それから気象モデル(weather model)、風力モデル、風力発電所、タービン1基、各ブレードに対する風の流れ、各タービンで発生する無数の風が風力発電所の全体的な性能に与える影響、と掘り下げていきます。」とGEリサーチでデジタルエンジニアリング部門のシニアディレクターを務めるリチャード・アーサー(Richard Arthur)は話します。

「物理学に基づいてコンピューターサイエンティストがモデルを作成するとき、数値の複雑さを使用するコンピューターシステムで実際に計算可能な水準までコントロールする必要があるため、従来は各々のスケールに対して異なる物理モデルを使用してきました。」とアーサーが説明します。「スケール別の多様なモデルを統合するにはスーパーコンピューターが必要となるのです。」

リー率いるチームの研究は、今後1年間で3段階に分けて実施されます。はじめに、例えばマサチューセッツ州クリーンエナジーセンター(MassCEC)が収集したフィールドキャンペーンからの膨大な風力データを利用して、米国北東沿岸地域で発生する特有の下層ジェット気流パターンを特定します。次に、時間と高度の変化に伴って変わるジェット気流の強度とスピードをモデル化し、発電エネルギーとなる気流を分析するためにシミュレーションを行います。最後に、こうしたシミュレーションの結果を使用して理論上の風力発電所における気流モデルを作成し、最適な負荷容量と発電量の算出を行います。

しかし、これだけに留まりません。リーとGEが取り組んでいる複雑な乱流(turbulent flows)のモデリングフレームワークの進展は、数多くの用途に活用できる可能性を秘めています。「非常に大きな課題なんです。」とアーサーは言います。「乱流は数多くの工学的かつ科学的な問題に関わるものです。風、気象、気候、エンジン、発電機、さらに静脈血流やMRIの超電導磁石など医療分野での応用まで含まれるのですから。」

リーは、沿岸地域のジェット気流解析を次の段階に進めることを心待ちにしています。「大学院2年生のときにコペンハーゲンの学会に行ったとき、初めて洋上風力発電所を目にしたんです。」と彼女は振り返ります。「回転するブレードの光景に圧倒されました。数年後にその研究をして、洋上風力研究に貢献できる機会に巡り会えるとは想像もしていませんでしたね。本当にワクワクしています!」

上部画像: 3つの風力タービンの瞬間風速を横断図で提示するスーパーコンピューターのシミュレーション。米国エネルギー省のALCCプログラムでGEの科学者が海岸地域の下層ジェット気流の調査用に作成するタイプのシミュレーションです。画像提供: GEリサーチ

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