
IoTと「デジタル・パワープラント」がもたらす電力業界の大変革
第4次産業革命の変革の波が、あらゆる産業へと押し寄せてきていることは今や誰もが感じていることでしょう。なかでも、その波に乗る必要性に最も迫られているのは、エネルギー産業かもしれません。環境問題や化石燃料コストの予期せぬ変動、自由化によるサービスの細分化や価格競争といった背景もあり、エネルギー産業全体が、新しいアイデアを持ち込んで対策を講じようとしています。
いかにしてそれらの課題を解決し、産業の発展を図るべきか。GEパワーでアジア太平洋地域のデジタル・オフィサーを務めるルイス・ゴンザレスは「もはや、発電事業の運営方法を刷新する必要かあるかどうかの議論ではなく、いつ、どうやって刷新するかが論点です。そのためには、成功の定義をも変えねばならない段階に来ています」と指摘します。そこでのアプローチとして、GEが2015年9月に発表し、すでに世界で導入が進んでいる「デジタル・パワープラント」をご紹介します。
ルイス・ゴンザレス
GEパワー デジタルソリューション
チーフ・デジタル・オフィサー アジア・パシフィック担当
「デジタル・パワープラント」は、発電施設内の機器や設備をインダストリアル・インターネットに接続することで、ハードウェアとソフトウェアをシームレスに統合し、データ活用により効率的な運用を実現する、というもの。いわゆる第4次産業革命の象徴でもあるIoT技術を活用するアプローチです。設備から収集するデータを解析することで機器の状況をリアルタイムで把握、得られる知見を通じて迅速な判断と正確なアクションを導き出すことで、予期せぬダウンタイム回避や効果的なメンテナンス戦略を実現(アセット・パフォーマンス管理)するとともに、より効率的な運転、機器の活用、燃料供給管理といったオペレーションの最適化を達成していきます。すでに世界各地では、火力、風力、水力発電など、様々な発電所にこのテクノロジーが導入され、発電効率の向上や需要の変化に応じたタイムリーな発電など、これまでは不可能と考えられてきた結果を示しはじめています。
避けるべきは データの“アイランド化”
「しかし、将来にわたって効率よく安全に、そして安価な電力をつくり供給していくためには、個々の機器や発電所の最適化を図ればよいというものではありません。発電産業のエコシステム全体で考えることが必要です。それぞれの機器や施設が“アイランド化”して、エコシステム全体の制御や管理ができない、となればそこには大きな機会損失の可能性もあり、ともすると事業の障害にもなりかねません」
具体的に考えてみましょう。たとえば、天候や原油価格といった外的要素、個々の発電所、機器のオペレーションといった社内のOT(オペレーション・テクノロジー)要素、さらには経営上のビジネス・プロセスを通じた社内のIT(インフォメーション・テクノロジー)要素。それらが個々に“アイランド化”した状態では、いくらデータを収集しても、それぞれのデータは”アイランド”内での活用の域を出られず、企業としてより効果的な利活用を実現することは困難です。すべての“アイランド”を一つのシステムとして統合し、データ分析によって一つの「真実」を導き出すことによってこそ、収益性、生産性、俊敏性、信頼性を向上するデジタル変革となり、事業成果となって現れる最適化の実現になる、とゴンザレスは指摘します。
たとえば、天候によってアウトプットが大きく左右される再生可能エネルギーも、この考え方に基づけば、効果的なエネルギーミックスの実現や各発電ソース間の迅速な切り替えが可能になっていくはず。また、社内に蓄積される様々なデータを活用することで新たなビジネスの可能性を見いだすことも可能です。
「たとえば、燃料であるガスの価格変動のデータを元にして効率的な燃料供給の管理を行う。その知見を蓄積していけば、単にガス価格が自分たちのビジネスにどう影響するかを考えるだけでなく、ガスの取引に携わることもできるかもしれません。また、さらにはガスの販売業務を行うといった新しいビジネスのポートフォリオを見いだすことができるかもしれません。デジタル革命によって、新しい利益の源泉、可能性を開くこと、つまりビジネスの最適化が実現するのです」とゴンザレスは説明します。
デジタル変革がもたらす新しい収益源
すでに、米電力大手エクセロン社は、企業経営レベルでのデジタル変革をにらみ、「デジタル・パワープラント」を導入しています。GEとのワークアウト・セッションで同社から生まれた100を超えるアイデアの中から、現在ではガス、原子力、風力の3つの事業領域において、5つの実証プロジェクトを推進。アセット・パフォーマンス管理、オペレーションの最適化、ビジネスの最適化、そして経営層への情報提供といったビジネスの様々なレベルで、デジタル技術を取り入れています。
また、世界で2番目の規模を持つカタールの液化天然ガス供給会社、ラスガス社ではGEが提供する産業向けクラウド・プラットフォーム「Predix」上のアプリによってガスの使用状況を把握し、それを販売に活かすというオペレーション最適化を進めています。同社はさらに、今後、独自に開発するアプリケーションを「Predix」上で他社に販売し、新たな収益につなげる事業を開拓しようとしています。
ワールド・エコノミック・フォーラム(世界経済フォーラム)が今年1月に発表したホワイトペーパーでも、電力産業におけるデジタル変革は、効率化の成果として「計画外停止の75%の回避」、「電力の無駄の8%を排除」の実現が見込まれるほか、「電気事業の域に留まらない新ビジネスの創出」につながると指摘。「デジタル変革は、電力産業の成長に莫大な影響力を秘めている」としたうえで、2016年から10年間の全世界での電力産業の市場価値は1.3兆ドルにのぼると記しており、GEの試算による2020年の電力産業の市場規模(900億ドル)を大きく上回る予測を立てています。
「電力業界におけるデジタル革命はいつ起こるか、という段階ではなく、すでに起きている事実。日本を含めた全世界で進む大きな変化です」とゴンザレスは言います。発電技術を提供するハードウェアメーカーであり、IoTのプラットフォームやデータ解析技術を提供するソフトウェアカンパニーでもあるGEは、この変革を車輪となって進める立場にあると考えています。電力各社の「デジタル・パワープラント」化を支援し、アセット・パフォーマンス管理からオペレーションの最適化、ビジネス全体の最適化に至るまで、デジタル技術を活用したスピード感ある経営変革を提案し、その推進に一緒になって取り組みます。
こちらもご覧ください:「日本発IoTに向けた戦略と課題」
GE Digital Day 2016(7月開催)パネルディスカッションよりダイジェスト版