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エンジンを冷やせ:極超音速飛行の到来とその実現を支える技術

トーマス・エジソンは失敗を好んだことで有名です。失敗を道しるべとして利用し、新しい解決策を生み出したのです。しかし、GEでこの「レモンを与えられたらレモネードを作れ」の哲学を信奉したのは、創業者であるエジソンだけではありません。例えば、スタンフォード・モスもその一人です。モスはコーネル大学出身の有能なエンジニアで、1904年にGEに入社し、最も初期のガスタービンの開発に着手しました。問題は、そのタービンが動かなかったことでした。モスはくじけず、自らのガスタービンを小さく設計し直して、航空機エンジンに流入する空気を圧縮して高高度でも航空機の出力を維持できるターボスーパーチャージャーを開発しました。

この装置を使用した最初の航空機は、1919年7月12日に初めて離陸しました。最終的に高度18,400フィートで時速137マイル(約220キロ)という記録的な速度に達し、スーパーチャージャーのない航空機の時速90マイル(約145キロ)を大きく上回りました。モスの設計した装置を搭載した航空機は、後にいくつもの世界高度記録を樹立することになります。

この功績によってモスはアメリカ国立航空殿堂入りを果たし、GEの航空事業創設につながりました。初フライトの前夜に創設された航空事業部門は2019年7月に、100周年を迎えました。GEアビエーションは今や300億ドル規模(2018年収益に基づく)の事業に成長し、超音速軍用航空機向けエンジンや世界最大かつ最高出力の商用ジェットエンジンを製造しています。GEの統計によれば、GEの技術を搭載した航空機は2秒に1機、世界のどこかで離陸しています。すなわち、常に2,200機以上が上空を飛行していることになります。

そして、GEアビエーションはさらにその先を目指しています。現在、次世代民間用超音速ジェット機向けのジェットエンジンを開発中で、時速3,500マイル(マッハ5)を超える極超音速機用エンジンの開発も視野に入れています。現在の商用機の標準的な速度の約7倍に当たるこの速度になると、ニューヨークからシドニーまで3時間以内で移動できるようになります。

そのようなフライトはいつ実現するのでしょうか?「極超音速飛行の実用化までには、まだ数十年はかかるでしょう。しかし、GEの技術ポートフォリオの中でセラミック基複合材料などの技術が進歩してきていることから、これは実現できるかどうかではなく、いつできるかの問題だと考えています」と、GEリサーチの先端技術リーダーで、極超音速飛行の研究に携わってきたナレンドラ・ジョシは言います。

先頃、その研究内容についてジョシに話を聞きましたので、一部をご紹介します。

アエリオンAS2などの超音速ジェット旅客機は就航に向けた準備が進んでいます。
その次に登場するのが極超音速機です。最上部及び上部画像提供:アエリオン

GEレポート(GER: あなたの業務について教えてください。

ナレンドラ・ジョシ(NJ: 私の仕事は、今から100年後の未来を想像し、それを実現させることです。現在はGEの研究所で、安定した超音速商用飛行だけでなく、将来的に極超音速での飛行も可能にする基礎技術の開発に取り組む学際チームを率いています。

GER: 例えばどんな技術でしょう?

NJ: 航空産業における極超音速時代の追求は、5つのポイントに集約されます。すなわち、高温材料、熱管理技術、エンジン設計、高度車両制御、そして排気制御技術です。

GER: では、材料の話からお聞かせください。

NJ: ジェットエンジンのメーカー向けに、エンジン内部の火山並みの温度に耐える高温材料の開発という課題に何十年も取り組んできました。例えばセラミック基複合材料(CMC)。CMCの一部は、すでにCFMのLEAPエンジンなどのジェットエンジンの内部に使われています。そうしたCMCは、重さでは同様の金属部品のわずか3分の1にもかかわらず、それらと変わらない耐久性を備えています。耐熱温度は最新の超合金を数百度も上回ります。このため、この複合材料を使用した当社の新しいエンジンプラットフォームは、熱効率が1.5%上昇しました。これは、航空産業の燃料費を数十億ドル節約できる計算になります。

しかし、極超音速飛行になると、この課題は機体外側の材料にも関係してきます。マッハ5で飛行する航空機周辺の空気の温度は、華氏1,500度(約摂氏815度)を超えるところまで上昇し、機体の外側は赤く光ります。CMCのような新材料の進歩が続くことが、この課題解決への端緒になると私たちは考えています。

GER: それほどの熱をどうやって制御するのですか?

NJ: 現在のジェットエンジンでは、より高温に耐える材料に、高度な冷却システムと高温にさらされる部品の遮熱コーティングを組み合わせた多面的アプローチにより、より高温で過酷な稼働環境に対処しています。GEリサーチでは現在、これらの各専門分野と3Dプリンティング・設計の経験を統合し、エンジン内部と極超音速機の機体外側の高温に対応できる、熱管理のためのまったく新しい設計とアーキテクチャの開発に取り組んでいます。

GER: エンジンの外観はどんなものになりますか?

NJ: ジェットエンジンとは異なるものになります。これまで5年近く、GEは「回転デトネーション燃焼(RDC)」という新しい燃焼技術を開発してきました。この技術は従来のジェットエンジンと並んで、極超音速で飛行するための十分な推力を生み出すために研究されているいくつかの有望なアプローチの一つです。

GER: なるほど。洗練された新しい機体とエンジンが生まれるわけですね。他にはどんな変化があるでしょうか?

NJ: 極超音速での飛行機の操縦がどんなものになるのか、私には想像もつきません。飛行の安全性を確保するため、航空機の作動および制御システムに新たな進歩が必要になるでしょう。離陸時の低速と巡航時の高速で機能するものでなければなりません。この課題については、解決策に結びつく可能性があるものとして、シンセティックジェットとコールドプラズマを利用した高度応用技術を探っています。

GER: 環境への影響はないのですか?

NJ: GEの研究者は、より静かで汚染の少ない航空機エンジンをつくるため、騒音や汚染物質の低減技術の開発分野で何十年もの経験を蓄積してきました。米国の航空宇宙局(NASA)や連邦航空局(FAA)などと協力し、超音速飛行におけるこの課題に対処するためのプログラムにも取り組みました。私たちには数値流体力学や、音響学、燃焼に関する深い専門知識もあり、これらを極超音速飛行が呈する課題に応用することができます。

今から百年後、世界がどう変わっているかを突き止めることは困難です。しかし、極超音速飛行が現在飛んでいる航空機と同じぐらい当たり前のものになっているのは間違いないと思います。唯一の違いは、その旅が地球の大気圏内にとどまらないことでしょう。私たちが到達できる範囲ははるかに広くなっているはずです。

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