ロゴ

こいつを変えよう:ターボプロップエンジンを革新するために知恵を出し合った400名のエンジニアたち

トーマス・ケルナー

今から1世紀以上前、若きエンジニア、サンフォード・モス(Sanford Moss)が独創的なガスタービンの特許を取得したとき、彼はこの装置が世界を変えることを期待していました。結果的にその後、この装置は世界を変えたのですが、それは彼の当初の想像からは違ったものとなりました。

モスが開発した当初のガスタービンは、多くの燃料を必要とする割に発電出力が十分でなかったため、彼自身この特許をほったらかして、別の仕事に取り掛かっていました。そんな1917年のある日、現在の航空宇宙局「NASA」の前身であるアメリカ航空諮問委員会(The National Advisory Committee for Aeronautics)から声がかかりました。当時は、航空機が初めて本格的に導入された戦争とされる第一次世界大戦が激化していた真っ最中で、アメリカ政府は自国の軍用機が高度を上げ空気が薄くなっても機動力を失わない工夫をGEに求めてきたのです。そこでモスは仕舞い込んでいた自身の特許をひっぱり出し、高高度でエンジンが吸入する空気を地上近くの空気と同じ密度になるまで圧縮するラジアル型タービンを設計しました。ターボスーパーチャージャー(turbosupercharger)と呼ばれるこの装置は、機体が高度を上げると失われる馬力を回復するのに役立ち、モスはこの開発の功績によりアメリカ国立航空殿堂(The National Aviation Hall of Fame)入りを果たし、GEにとっても航空事業の創設につながりました。現在のGEアビエーションのターボプロップエンジン担当ゼネラルマネージャーを務めるポール・コークリー(Paul Corkery)は次のように述べています。「モスが成し遂げたこと、それはターボスーパーチャージャーを開発したことによって、航空機のエンジンが低い高度でしか出せなかった出力を、高度14,000フィート(約4,300m)の上空でも可能にしたことです。」

コークリーは今、いくつかの点で先人のモスが切り開いた道を歩んでいるとも言えます。コークリーはGEでの30年に及ぶキャリアのうち、最初の15年間ではガスタービンの改良に携わりました。現在、彼は400人の航空エンジニアを率い、新型ターボプロップエンジンの開発を進めています。このエンジンは、民間航空機向けターボプロップエンジンとしては50年ぶりに一から新しく設計されたもので、航空機業界を新たな高みへと導くと期待されています。

GE Catalyst(注:catalystは化学反応のスピードを変化させる「触媒」)と称されるこの新型ターボプロップエンジンは、GEの大型商用ジェットエンジンの技術とノウハウに、デジタルエンジン制御技術を組み合わせることにより、航空機メーカーに新たな設計上の選択肢をもたらしました。このエンジンは、ターボプロップ機の操縦法を根本から変えると期待されており、現在市場で販売されているエンジンと比較して、燃料の節約とCO2排出量の最大20%の削減をも実現することを目指しています。またこのエンジンは、バイオ燃料とも呼ばれるサステナブルな航空燃料(Sustainable Aviation Fuel、SAF)を使用することができる上、新しいタイプの無人航空機やハイブリッド機にも搭載できる可能性があります。「技術的な面からいえば、このエンジンは航空機メーカーにとって不可能を可能にするイネーブラーです。5年前にこのエンジンの開発を始めたときに決めた多くのことが、今後に向けた良いガイドになりました」とコークリーは言います。

GEアビエーションのポール・コークリー(左)とミラン・スラパック(Milan Slapak)は、今年7月、GE CatalystエンジンのモックアップをEAAエア・ベンチャー・オシュコシュ(EAA AirVenture Oshkosh)と呼ばれる航空ショーに持ち込み展示しました。画像提供:GE Reportsのアレックス・シュロフ。トップ画像:チェコ工科大学(CVUT)のフライング・テストベッド機(FTB)に搭載されたGE Catalystエンジン。画像提供:アビオ・エアロ社(Avio Aero)。

コークリーのチームはターボプロップではかつて試されたことがなかった先進的な技術も投入しました。例えばCatalystエンジンのコンプレッサーの可変ジオメトリは、GEの伝説的な航空エンジニア、ゲルハルト・ニューマン(Gerhard Neumann)が超音速エンジン用に開発したものです。かつてニューマンは、エンジンに搭載した可変静翼をパイロットが操作することで、タービン内の圧力を飛行中も変更できるようにし、航空機をより高速で飛行させる方法を考案しました。この技術をCatalystエンジンにも転用することで、エンジン内部の圧力と温度を高め、燃料をより効率的に燃焼させ、高度を上げてもパワーとスピードを上げることを可能にしたのです。コークリーは次のように言います。「エンジンパワーが上がれば、航空機メーカーは、より大きく快適なキャビンを設計し、より高度を上げても高速飛行が可能な航空機を開発することができます。ただ速く飛べるだけでなく、燃料消費量やCO2排出量もより少なくて済みます。既に大型機用エンジンですべて経験していることなので、新型エンジンとは言えGEにとってはすでに十分な知見を持つ技術の集積と言ってよいでしょう。」

昨年GEは2030年までに自社の事業活動におけるカーボンニュートラルを実現することをコミットしました。また7月上旬に発表したGEのサステナビリティ・レポート2020年版では、さらに踏み込んだ目標として、販売した製品の使用によるスコープ3(Scope 3)排出量も含めて2050年までにネットゼロを実現することを掲げています。また、GEはCatalystエンジンの開発においてEUのクリーンスカイ(CleanSky)イニシアティブの「マエストロ(Maestro)」プロジェクトにパートナーとして参加しています。同プロジェクトは航空業界の脱炭素化を目的としたヨーロッパ最大の研究プログラムになります。

7月下旬には、ウィスコンシン州オシュコシュ市で開催された、おそらく世界最大の規模で航空関連企業や航空ファンが集まる航空ショー「EAAエア・ベンチャー・オシュコシュ(EAA AirVenture Oshkosh)にGEはCatalystエンジンのモックアップを持ち込みました。コークリーは次のように言います。「オシュコシュにやって来るのは、ここが航空に関するビジネスやマーケットの一大中心地だからです。ここにみんなが集まり、GEも新しいテクノロジーを持ち込みます。」そして現在、Catalystエンジンは特別仕様のビーチクラフト・キングエア機(Beechcraft King Air)に搭載され、フライング・テストベッド(FTB)としてベルリンで初飛行を控えている段階にきています。

テキストロン(Textron)社製ビーチクラフト・デナリ機(Beechcraft Denali)に組み付けられたGE Catalistエンジン。画像提供:テキストロン社。

大型機用の技術を系譜とすることから、Catalystエンジンは1,300馬力の軸出力というパワーを持つに至りました。その一方で、エンジンとプロペラの両方を完全に自律制御する「フルオーソリティ・デジタル・エンジン・コントロール(Full Authority Digital Engine Control、FADEC)」は同エンジンの頭脳を担います。FADECは完全に冗長化された2組のコンピュータシステムで構成され、速度、空気の温度や密度、高度なども含む様々な要素を計測するセンサーからデータを取り込み、パイロットが最適な条件で航空機を操縦できるようにする技術です。

ジェット機には何十年も前からこのFADECの技術が投入されていますが、民間用のターボプロップ機ではパイロット自身がFADECとなる必要があった、とコークリーは言います。今後はCatalystエンジンのFADEC機能を活用することで、パイロットはエンジンのセッティングの微調整に要する時間から解放され、機体の操縦自体により多くの時間を振り向けることができます。コークリーはまた次のようにも説明します。「FADECは機体が置かれている状況を把握し、その状況に合わせてプロペラのピッチや燃料のフローを最適化します。パイロットは従来のように適切なパラメータで飛行を最適化するためにチャートをみながら4本のレバーを操作するという作業が不要になります。すべてがデジタル化されるのです。パイロットは1本のレバーを持つだけでいいのです。これでジェット機を操縦するのと同じような操縦法になります。」

ビーチクラフト・デナリ機(Beechcraft Denali)のコックピット。「パイロットは1本のレバーを持つだけでいいのです。これでジェット機を操縦するのと同じような操縦法になります」とコークリーは言います。 画像提供:テキストロン社(Textron)。

GEのターボプロップ事業の本拠地であり、プラハに拠点を構えるGEアビエーション・チェコ社のCEOを務めるミラン・スラパック(Milan Slapak)は次のように述べています。「FADECが今後の自律飛行への扉を開くのです。と言っても、コンテナの中に隠れた誰かがドローンや無人機を遠隔操縦するというものとは違います。機体に搭載された人工知能(AI)がFADECに指示を出し、FADECは必要な調整をすべて引き受けるのです」と語ります。

テキストロン・アビエーション社(Textron Aviation)は、Catalystエンジンの性能特性を最大限活用する最初の航空機メーカーとなりました。同社が一から新たに設計した高性能ターボプロップ機であるビーチクラフト・デナリ機にふさわしいエンジンの設計・開発をGEと協働して行いました。この単発機は乗員4名とパイロット1名が搭乗した状態で、巡航速度285ノット(時速約528km)、1,100ポンド(約500kg)の燃料で1,600海里(約3,000km)の飛行が可能です。テキストロン社のテクニカル・マーケティング・アドバイザーを務めるアレックス・ハント(Alex Hunt)は、「ビーチクラフト・デナリ機の開発とGE Catalystエンジンの開発を振り返ると、両者は本当に密接に結びついていました。GEは、ターボプロップ機でありながらビジネスジェットのようなスタイルを持つ航空機の開発を実現するために、この機体を活用できる仕様のエンジンを開発し、支援してくれたのです」と述べています。

コークリーの前述のCatalystエンジンを巡るコメントと同様に、デナリ機のビジネスジェット機のようなキャビンも、GEとテキストロンの両社の協働がもたらした良い一例です。テキストロン社のエンジニアは、この広々としたキャビンを一枚のアルミニウムから成型することで強度を高め、キャビンのサイズも大きくしています。 テキストロン・アビエーション社では大型ジェット機と同様に、高速機械加工されたモノリシック(一体型)部品も多用することで軽量化とコスト削減、そしてキャビンのサイズアップを実現しています。また、エンジンから吸入した外気をデジタル式与圧システムで客室に送り込めることから、乗客は3万フィート(約9,000m)の上空においても6千フィート(約1,800m)程度の高度で飛行しているような感覚を得ることができます。これは従来ボーイング777Xなどの最新鋭ジェット旅客機でしか味わえない体験です。「乗客はとても快適に過ごせます。リラックスしリフレッシュした状態で目的地に到着することができますよ」とハントは言います。

テキストロン社のテクニカル・マーケティング・アドバイザーを務めるアレックス・ハント(Alex Hunt)は「ビーチクラフト・デナリ機の開発とGE Catalystエンジンの開発を振り返ると、両者は本当に密接に結びついていました」と語ります。画像提供:GE Reportsのアレックス・シュロフ。

多くの航空機メーカーや航空会社とともに、ハントもこのエンジンの持つ高効率性とSAFでも飛行可能な特性に期待を寄せています。「私たちが最近最も多く投資している分野のひとつがサステナブルな燃料です。弊社のジェットエンジン機はすべてSAFを使用することができますが、ビーチクラフト・デナリ機に搭載されているGE Catalystエンジンでもそれを踏襲できることを嬉しく思います。サステナブルな航空燃料は、CO2排出量の削減にも大きく貢献します」とハントは言います。

GE Catalystエンジンの開発に際し、コークリーと彼が率いるチームは、一部の寒冷地試験や氷上実験はカナダで実施したものの、その開発のほとんどを欧州で進めました。GEアビエーション傘下のアビオ・エアロ社(Avio Aero)のイタリア人エンジニアたちがエンジンとギアボックス、FADECのシステム、高圧タービン部品などの主要部品の設計を行い、さらにポーランドとドイツのチームがコンプレッサーとその他の部品の開発を担い、チェコ共和国政府も本拠地となる施設や地上試験用のテストセル、組立工場を準備してくれました。「400人編成のチームを迅速に立ち上げるのは簡単なことではありませんでしたが、とにかくやり遂げる力のあるところを選びました」とコークリーは振り返ります。

エンジンから吸入した外気をデジタル式与圧システムで客室に送り込めることから、乗客は3万フィート(約9,000m)の上空においても6千フィート(約1,800m)程度の高度で飛行しているような感覚を得ることができます。画像提供:テキストロン社。

テキストロン社はまたチェコ工科大学(Czech Technical University、CVUT)とも協働し、Catalystのような最新のターボプロップエンジンのための新しい予防保全手法も開発しました。CVUTの試験機で飛行実験を行い、メンテナンス手法を実証するためのデータも積み上げる計画です。最初の試験飛行はベルリンで実施しますが、その後すぐチェコ共和国に移り試験の大部分を実施します。「近年、新エンジンを開発する際には最先端の性能解析モニタリングとその予測モデルが必要になります。CVUTは実証モデルに向けた研究開発用のデータを蓄積するための理想的なフライング・プラットフォームとして、ビーチクラフト・キングエア350型機(King Air 350)を選定しました。また、私たちは同大学の航空機でCatalystエンジンの初飛行が実際に行われることを嬉しく思っています」とスラパックは述べています。

かつてのサンフォード・モスの独創的なタービンはまさにその後、世の中を変えるのに役立ちました。だからこそ、彼の手によって世界に飛び立った航空ビジネスが世界中のエンジニアたちによって引き継がれ、再び新たな高みを目指しているのは当然のことと言えるでしょう。

メール配信メール配信