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華麗なる転身:マーサズ・ヴィンヤード沖でGE製風力タービンを整備する転職者たち

ダイアナ・デリング

2019年の夏、大工として働いていたパトリック・キャシディは新聞でヴィンヤード・ウィンド社の求人広告を見ました。米国内初の大規模洋上風力発電所が1995年から自分の故郷であるマーサズ・ヴィンヤード島の南約24kmに建設されるという内容に、彼は興味をもちました。自分の仕事にやりがいを感じ、大工という仕事自体を得意ともしていたパトリックですが、もっと安定した収入、そして有給休暇の可能性にも魅力を感じました。

同じ求人広告を見た人々のなかに、その夏チャーター船の船長として働いていたチャーリー・ライスもいました。マサチューセッツ州ケンブリッジで育った彼は、2014年、両親が生まれ育ったマーサズ・ヴィンヤードに移り住みました。そして2017年に父親と一緒に釣りや観光のチャーター船事業を立ち上げたのでした。しかし彼は、季節限定の観光客相手のビジネスを営むことに経済的なプレッシャーを感じていました。夏の間、島は避暑にやってくる別荘族が目立ち、その間だけは17,000人の人口が10倍に膨らみ活況を呈しますが、冬になると全く様変わりし、まるで別の島に来たようになってしまうからです。

それから4年近く経った現在、ライスとキャシディはGE Vernovaの洋上風力タービン技術者の最も新しい仲間になっています。2人は今後、1基13MWという世界最大級のHaliade-Xタービン62基の保守サービスに携わる予定です。これらのタービンはヴィンヤード・ウィンド社が進めている総発電容量800MWの洋上風力発電所に設置される計画です。ヴィンヤード・ウィンド社の事業は、マサチューセッツ州の40万戸以上の世帯および企業に電力を供給し、年間160万トン以上のCO2排出量を削減することが想定されています。事業開始まで、ライスとキャシディは、2016年12月にデンマーク企業オーステッド(Ørsted)が操業を開始したロードアイランド州のブロック島洋上風力発電所にあるHaliade 150 6MWタービンで実地訓練を受けています。

「私は建設業界を離れ、米国で新しく生まれる産業に参加するんだ、という意思決定をしたのです」とキャシディは語ります。

彼らのキャリアハイ(自己最高記録)

そのような決断をしたのはキャシディひとりだけではないのは言うまでもありません。米国労働省労働統計局(BLS)の報告書によると、風力タービン・サービス技術者職の雇用数は2031年までに44%増加すると予想されています。同報告書でこれを上回る増加率見通しが示された職種はナース・プラクティショナー(※)だけ(46%増)でした。

※ナース・プラクティショナー(NP):米国では1965年から始まり、NPは医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療を行うことが出来る。日本にはNPに相当する資格は無い。出典:日本看護協会

この仕事は気の弱い人には向いていません。最も近い海岸から何キロも離れた沖合の、しかも海面から何十mもある空中にある狭い空間で作業することに抵抗がない人にしかできません。また、現場ヘは船で向かうため、この通勤手段が苦にならないことも重要です。ライスとキャシディは気にも留めませんでした。ライスは次のように語ります。「私たちは2人とも、すべてのチェックボックスに『問題なし』の印を付けました。特に、屋外や海の上で自分の手を使って仕事をするのはお手の物ですからね。」

ロードアイランド州ブロック島にて、チャーリー・ライスと(下画像)パトリック・キャシディ。画像提供: GEリニューアブルエナジー。 トップ画像:オランダのロッテルダム港にあるこのHaliade-Xは、業界初の12MWタービンでした。画像提供: ダニー・コーネリッセン(GEリニューアブルエナジー)

2人は、エンジニアリングや電気機械の基礎からタービンテクノロジー、洋上での安全や救助に至るまで、広範囲にわたる研修や訓練を受けなければなりませんでした。また、彼らは、マサチューセッツ州フォールリバーにあるブリストル・コミュニティ・カレッジの洋上風力発電技術者プログラムを卒業した最初の8名のうちの2名となり、2022年6月に29単位時間のカリキュラムを経て修了証を授与されました。

彼らの研修には、Global Wind Organization(GWO)の安全認証を取得するための、コネチカット州グロトンでの特別トレーニング施設での1週間も含まれています。GWO安全認証は風力発電関連業務に従事する際に世界中で必要とされており、「それなしでは風力タービンに足を踏み入れることさえできません」とライスは言います。このプログラムには、応急処置や海上での水難救助の実技講習に加え、風力発電に携わる各作業エリアにおける安全、避難、救助に関する講習も含まれています。ヴィンヤード・ウィンドに設置されるHaliade-Xタービンの場合、各作業エリアとは、内部に約24mの梯子とそれに続くオープンサイドのエレベーターが設置されている高さ約150mのタワーと、13MWの巨大な発電機を格納するナセル、そして長さ約107mの3つのブレード(ブレード1つがサッカー場の長さに匹敵)が該当します。

技術者たちは自分の身を守るために、難燃性の衣服や特殊な装備を身につけます。例えば、メンテナンスを担当する技術作業員を輸送するための船からタービンに移る際に転倒し落水した場合に浮力を得て低体温症を防ぐイマーションスーツなどを着用します。また、梯子を登る際には、ハーネスを装着し、自動巻き取り式命綱と呼ばれる安全ワイヤーにしっかりと繋ぎます。さらに、タービンタワーの外壁を伝って避難する訓練も実施します。これが必要な場面は決して起こらないはずですが、万が一に備えて練習しておく必要があるスキルです。

「私たちが安全に仕事をするためにどれだけの安全対策が取られているか、皆さんは想像もつかないでしょう」とライスは言います。タービンのメンテナンスや修理の際には個々のタービンは停止されるほか、強風や雷の恐れがある場合には技術者を洋上施設に派遣することはありません。

さらに、風力タービンの定期メンテナンスは、日照時間が長く、北東大西洋岸沿いの海域が比較的温暖で穏やかになる晩春から夏に実施されます。一方、冬場は技術者の作業は修正や修理に限られ、例えば海水で傷んだ風速センサーの交換などが該当します。なぜなら、ロードアイランド本土にあるオペレーション&メンテナンス棟の一室から、高度なコンピューターソフトウェアを使って多くの遠隔診断作業を行うことができるからです。

Haliade-Xのナセル、ハブ、およびブレード。画像提供:GEリニューアブルエナジー

天候が良好な場合、少なくとも3人の技術者で編成されるチームがブロックアイランド・ウィンドの全長約21mのクルー輸送船「アトランティック・パイオニア号」に乗り込み、ブロック島の南東約4.8kmにあるタービンタワーに向かって港から約48km移動します。修理は内容によって数分のものもあれば数日かかることもありますが、チームは毎夕、作業船基地に戻ってきます。ヨーロッパの風力発電所の中には、タービンの近くに係留された大型船に技術者が寝泊まりし、数日続く保守メンテナンスシフトを消化するところもあります。ヴィンヤード・ウィンドの場合、メンテナンスチームは2週間オン、2週間オフのローテーションで勤務します。したがってロードアイランド本土の技術者は当番中は基地の宿舎で寝泊まりし、非番のときは自宅で家族とともにゆっくり休むことができます。ライスは次のように語ります。「長期的なキャリアを考えると、とても魅力的な制度です。マーサズ・ヴィンヤードに住む人々にとって、とりわけ夏に自由な時間が持ちやすいのはいくつになっても嬉しいことです。」

彼らがヴィンヤード・ウィンドで働き始めると、その習熟度は緩やかに問題なく向上していくラーニングカーブ(学習曲線、経験曲線)を描くことが予想されています。というのも、ヴィンヤード・ウィンドのHaliade-Xタービンは、ブロックアイランド・ウィンドのHaliade 150sよりもはるかにサイズが大きく、設置基数もかなり多くなりますが、コンピューターシステムは似ていますし、メンテナンスチームもより大きな陣容になると想定されるからです。「Haliade-Xは、まずイギリスの風力発電所(ドッガーバンク)に設置される予定なので、そこでトレーニングを受けることになるかもしれませんし、現地の人と共にオンラインで仕事をするかもしれません」とキャシディは語ります。

そして、キャシディが確信していることが一つあります。「膨大な量の作業を可能な限り効率的に進めて、タービンを回し続けなければなりません。」

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