
CO2を回収: 米国と欧州でCCUSソリューションに取り組んできたGEの次なるターゲットはアジア
グレガー・マクドナルド
エネルギー転換を進めるうえで重要な役割を担う天然ガス発電プラントは、再生可能エネルギー由来の電力がこれまで以上に送配電網に接続されることを支えるツールの一つです。信頼性と可用性の面でガス発電がもたらすメリットは多いものの、天然ガスは化石燃料であり、(石炭と比べるとはるかに少ないのですが)CO2排出を伴うというデメリットがあります。そこで、GEガスパワーはガス発電所のCO2排出量を削減するためにさまざまな取り組みを実施しています。その中でも待ち望まれているものの一つが、発電所から排出されるCO2を回収するという方法です。
CO2の回収、利用および貯留 (carbon capture, utilization, and storage、以下CCUS)として知られるこのテクノロジーは、コストと技術面での課題を克服できれば、気候変動問題の解決に大きな役割を果たす可能性を秘めています。GEは、CCUSを効率的に機能させる方法を模索するために、米国およびヨーロッパの企業やステークホルダーと協力してきました。そして今、アジアでも同様にCO2回収の取り組みを本格化させようとしています。
GEはこのほど、アジアで有数のエンジニアリング・調達・建設会社である韓国のDL E&C社およびその子会社のCARBONCOと協力することに合意しました。3社は、既存、新規を問わずコンバインドサイクル型発電所向けのCO2回収プロジェクトの可能性を探るために協力します。また、共同でフィージビリティスタディおよびFEED(Front End Engineering Design)調査も実施します。
GEガスパワーアジアのプレジデント兼CEOであるラメシュ・シンガラムは次のように説明します。「アジアでは1,300基を超えるGE製ガスタービンが設置され、企業や地域のコミュニティ全体に電力を供給しています。今回のコラボレーションは、CCUSテクノロジーをお客様が導入しやすくなるような道筋を整えるものとなり、ひいてはアジア全域のCO2排出量削減に寄与するものとなるのです。」
GEガスパワーのアジア脱炭素化リーダーを務める福井一成は次のように説明します。「CCUSはCO2を分離して貯留するという発想に基づいた新たな技術分野です。プロセスのなかでCO2は回収され、分離され、圧縮されます。その後、地中に埋めたり、化学品製造の原料に活用したり、他の石油・ガス会社などの事業者が産業利用することも想定されます。」
上画像提供: GE ガスパワー。トップ画像提供: Shutterstock
こうしたメリットがありながらCCUSの大規模な導入がなかなか進まない主な要因は、多くのプロジェクトが経済的な面で難しさを抱えているという点です。現在、世界中にあるCO2回収施設の多くは工場に併設されています。石炭火力発電所によるCO2回収の実証プロジェクトもいくつか進行中ではあるものの、現在運用中のガス火力発電所でCCUS設備が完全に一体化されている事例はないのが実情です。本格的なCO2回収施設を作るには、一から新たに建設することが必要となり、しかも発電所と完全に一体化してCCUS設備を併設するとなれば、全体の設置面積はおそらく現在の2倍になるとも予想されます。
今回のアジアで合意したイニシアティブは、米国やヨーロッパで進行中のCCUSプロジェクトに続くものとなります。これまでの例を挙げると、米国エネルギー省は、サザンカンパニーの子会社であるアラバマパワーが同州モービル近郊に所有するジェームズ・M・バリー火力発電所でのCO2分離・回収および圧縮技術を組み込む方法を探るため、GEに577万ドルの助成金を供与しました。この研究には、ビーエーエスエフ(BASF)、リンデ・エンジニアリング、キーウィットなど他のグローバル企業も参加することになりました。また、GEは英国でも、建設が提案されている天然ガス発電所を対象とした同様の研究を進めています。この研究ではGEはテク二ップエナジーズ社と協力し、CO2回収をはじめから発電所と一体化して包括的に開発するFEEDソリューションを検証する予定です。
GEがこれまで経験し、得意とするものの中には、天然ガスコンバインドサイクル型発電プラント(ガスタービンから排出される熱を回収して蒸気タービンを駆動し、さらに多くの電力を生成する仕組み)のエンジニアリング、機器のオペレーション能力、発電プラントの統合的マネジメントがあります。また、GEはCO2回収プロセスを改善するために、先進的な技術や制御コンセプト、ガス・蒸気サイクルの改良を研究してきました。なお、コンバインドサイクル型発電所にCO2回収システムを後付けし一体化するためには、熱と蒸気を統合・制御する必要があります。しかし、こうした統合テクノロジーはGEが産業用熱電併給プロジェクトや、複数の建物に熱と電気を供給する地域暖房アプリケーションで長年培ってきたテクノロジーと類似しており、そのノウハウを活用することが可能です。さらに、これらのテクノロジーの進歩は、発電プラントの設備投資や運転費用の低減に寄与し、プラントの柔軟性を高め、信頼性も保ちながら、CCUSテクノロジーをより経済的に後付けし一体化することを可能にします、と福井は説明します。
「DL E&C社、CARBONCO社との関係では、まず対象となるプロジェクトを特定することから始まります。これは、技術的、経済的な要因や、お客様の心に響くインセンティブをもたらすことができるかどうかにも左右されるでしょう」と福井は続けて説明します。今回のCCUSソリューションの取り組みでは、GEはDL E&CのCO2回収部門であるCARBONCOの技術に信頼を寄せています。CARBONCOは、韓国初のCO2回収プラントを商業化した実績があるからです。
福井は重ねて次のように述べています。「単に気分が良いからという理由だけでCCUSテクノロジーを選ぶ人はいないはずです。GEはCCUSを天然ガスプラントに適用することがとても難しい挑戦であることを理解していますし、そのためには経済合理性を正しく把握することが不可欠です。」しかしながら、世界中に設置されている天然ガスタービンの膨大な数を考えると、CCUSはCO2排出量削減を推進するうえで有望なビジネス領域であり、取り組む価値は十分にあるのです。