
かかって来い!:強風、噴火、コロナ禍にも負けず任務を遂行するエンジニア達
ピーター・C・ベラー
GEのエンジニア3人は同じことを心配していました。「クレーンと発電機は同時に到着するのか?」 ガネシュ・ポタラジュ(Ganesh Potharaju)、ガイ・ストーケル(Guy Stoeckel)、チャーリー・クレメント(Charlie Clement)は、フィリピン諸島で最大の面積と人口を誇るルソン島に立地するカラカ石炭火力発電所で30年使用した蒸気タービン発電機を新品と交換する方法について、数ヶ月をかけて分刻みの計画を立てました。
この発電所は全国送電網に電力を供給しており、円滑な運用が不可欠です。そのため、チームは極めて綿密に計画を練り、180トンの発電機がフランスから1ヶ月の航海を経て発電所のドックに艀船で到着する際、潮の状態がどうなっているかという点まで考慮されました。
古い発電機を撤去して新規交換品を搬入するには、発電所の屋根に大きな穴を開けて、蒸気タービン建屋にクレーンを搬入しなければなりません。しかし、これほど巨大な物体を安全に吊り上げることができるクレーンはフィリピンでも数少ない為、国内でも貴重な同機材を順番待ちをしている顧客がいます。クレーンを借りることは可能ですが期間延長の余地は全くありません。
フランスから来る発電機の到着が遅れた場合、3人は巨額の延長料金の支払いを避ける為クレーンを一旦返却する必要があります。一方、クレーンの到着が遅れたら、この作業ができるように他の工事を中断できる期間を過ぎてしまい、次に可能な時期が来るまで発電所は通常の半分の出力で稼働せざるを得ません。
計画はなんとか立てられたのですが、今度は計画には入っていなかった事態が発生します。近くの火山が噴火して数日間現場に火山灰が降り続け、その上、新型コロナウイルス感染症の流行で数週間技術者が現地入りすることができず、事態はさらに複雑になりました。

プロジェクトの成功に向けてエンジニアは想像力を働かせる必要がありました。1世紀以上前に地球の裏側で同様の発電機交換を実施したケース等、数多くの前例を参考にすることができたのは幸運といえます。GEの得意分野として知られる複雑な機器の組立て及び納品は全工程の半分にしか過ぎないからです。世界中で使用される発電機の設置作業もそれと同じくらいに困難を極めます。
この1世紀前の事例は、GEのフィールドエンジニアの間では伝説となっています。1912年、後にニューヨーク・ヤンキーズのオーナー及び大手ビール会社の財産相続人となるジェイコブ・ルパート(Jacob Ruppert)元議員は、マンハッタン区アッパー・イースト・サイドにある自社醸造所に新しい蒸気タービン発電機を導入するようGEに依頼しました。当時、GEのフィールドエンジニアとして従事していたパーシー・ヤング・タミー(Percy Yonge Tumy)は、これは不可能に近いミッションだということにすぐさま気がつきます。醸造所の屋根の強度が十分でないため、新しい発電機をチェーンブロックで吊り下げて設置するという一般的な手段を選ぶことができなかったのです。
新しい発電機は、組立て済みの状態で設置する必要がありました。その高さと幅は、既存の発電機の設置空間を数インチ下回るだけです。丸太の上をスライドさせ、ジャッキで下げて設置するという過去に成功例のある手段を使うにも十分なスペースがありません。タミーは、新しい発電機には前よりもっと広いスペースが必要になると醸造所に連絡しました。「ビール醸造界の大物ルパートは激怒していました。」とタミーの息子で同じくGEのフィールドエンジニアのロバート・タミー(Robert Tumy)はGEのフィールドサービス100周年記念誌で述べています。「2週間で新しい発電機を元の場所に設置できるとGEから言われている。」とルパートはタミーを叱責しました。「その通りにやらないと誰かのクビが飛ぶぞ!」
夕食の席でデザートにアイスクリームを注文したタミーは解決策を思いつきます。翌日、彼のチームは発電機の設置空間にブロック状の氷を積み重ね、この氷の上に巨大な発電機をスライドして移動させ、徐々に溶け出した水をチームがポンプで排出していくことで、新しい発電機を土台に据え付けられたのは期限の1日前のことでした。ニューヨークで最も裕福な実業家であったルパートはGE宛の書簡でタミーの功績を称えました。タミーは25ドルのボーナス(当時で約3週間分の賃金)を受け取った、と息子のロバートは語っています。
発電機の交換は1世紀の間に数回あっても、さほど頻繁に起こることではありません。発電機は発電所の耐用年数を考慮して製造されているため、その稼働に必要となるタービンや配管、周辺の電気装置の導入前に設置されるのが一般的です。そのため、発電所の稼働開始後に発電機を撤去するのは困難を極める作業となります。しかし、時にはそのトラブルに立ち向かう必要があるのです。
今回のケースでは、カラカ石炭火力発電所の所有者が運用寿命延長を目的とした全プラントの改修を行うため、330メガワットの水素冷却式発電機を交換する必要がありました。GEスティームパワーのエンジニアであり、新たに設置する発電機の建設及び設置の責任者であったガイ・ストーケルは、この新しい設備を自動車に例えます。元のモデルと基本設計は同じですが、新型は最新の素材が採用され、使用可能なオプションが広がり、燃費も改善されています。
このプロジェクトの実行手段は、世界各地で勤務する3人が考案しなければなりませんでした。フランス在住のストーケル、マレーシア在住でGE FieldCore部門に務めるガネシュ・ポタラジュ、フィリピン(マニラ)でGEスティームパワーを主導するチャーリー・クレメントです。そして彼らも、タミーが経験したような制約に直面することとなります。「壁に穴を開けたとしても、タービン建屋には古い発電機をスライドさせて新品を搬入できるほどのスペースがなかったのです。」とポタラジュは話します。古い発電機の接続解除と新規品の接続にはそれぞれ1ヶ月程度を要するため、実際の交換のタイミングを見極めることが難しい上に、発電所の至るところで他の工事が進行中で、GEチームには限られた時間とスペースしか与えられていなかったことから作業は難航しました。
「発電機が現場に到着次第、タービン建屋に搬入するという算段です。」とポタラジュは話します。「待っている時間はありません。」
彼らが考えた解決策は複雑なものでした。発電所の常設屋根を解体する間、極めて重要な設備を覆うため、小型クレーンで梁を適切な位置で支えて仮屋根を設けるというものです。1月の早朝、新しい発電機は発電所に近いバタンガス港に到着。発電所のドックまでポタラジュが同乗した艀船で輸送した後、特殊車両に慎重に積み替えてクレーンへと輸送されました。発電所職員と建設作業員が一同に集まり見守る中、クレーン自体の移動にはトラック20台、その組み立てに4日を要しました。強風が止んだ時点で、巨大なクレーンの運転士が古い発電機を巧みに吊り上げ搬出してから新規品を設置しました。いずれも2時間を要する作業です。
「180トンの設備の引き上げには大変な技量が必要となります。」とクレメントは言います。プラント所有者の家族も見学に来たと話しました。
完了を祝っている余裕はありませんでした。新規品の搬入終了次第、それを適切に設置してコンポーネントの調整及び試験を行うのは、ストーケル率いるチームの任務となります。通常は約1ヶ月を要する複雑なプロセスです。しかし、1月12日にタール火山が噴火し、1週間ほどルソン島中部の大部分に火山灰が降り続けました。
作業は中断され、エンジニアはホテル待機となりました。その1ヶ月後に新型コロナウイルス感染症が流行して渡航が禁止されたため、GE技術者がサイトを訪れて発電所システムへの発電機の接続及び運用試験を行うという数週間のプロセスが実施不可となりました。チームの機転で1日2回のスカイプ会議が立ち上げられ、発電所内の作業員がデータや所見を外部の専門家に送信できるよう手配されました。
「Facebookにプロジェクトに関する投稿をしたことはなかったのですが、このプロジェクトは例外でした。」とポタラジュはクスクス笑いながら振り返ります。「私にとってはそれほどクレイジーなプロジェクトだったのです。」
GEとアルストム社で計47年間勤務したストーケルも賛同します。「この交換作業をフィリピンで実現するというのは本当に素晴らしいチャレンジでした。発電機の交換はそう頻繁に起こることではないですから。」