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型破りな金型:3Dプリンティングが切り開く風力発電の新しい可能性

ダニエル・テルディマン

何百年もの間、工業用の部品を鋳造する手順はほとんど変わっていません。部品を設計・試作し、それを基に金型を作り、その金型で形成された空洞部に溶かした金属を流し込み、最終製品を鋳造するというプロセスが世界中の鋳物工場で行われているのです。しかし、3Dプリンティングとして知られるアディティブ・マニュファクチャリング(積層造形)技術に出会った鋳物工場の技術者は、即座にこの手法がものづくりを根本的に変える可能性があることに気づいたのです。

GEのHaliade-Xのような強力な風力タービンの部品を鋳造できる工場はスペインやドイツなどにあり、風力発電産業の成長が目覚ましい米国や欧州から見ると、はるか地球を半周しなければならない距離になります。鋳造工程だけでも数か月かかるうえ、作業従事者も多く、重い溶融金属を扱うなどいくつもの労働集約的な工程が必要です。さらに、出来上がった製品を運搬する際、その距離が何千キロにも及ぶこともあります。

もし、コンピューターファイルから出力したデータを基に大型3Dプリンティング機器でタービン部品の金型を成形できる鋳物工場が顧客の近くにあったらどんなに便利でしょうか。GEリニューアブルエナジーのシニアデザイナーを務めるファン・ポール・シリア(Juan Paul Cilia)は、GEリニューアブルエナジーのチームが最近訪問したファウンドリー(鋳物)パートナー企業の1社に、まさにその通りのコンセプトを提案したと語ります。

風力タービンのナセル部品を3Dプリンティングする工程。画像提供:ヴォクセルジェット社(Voxeljet)。 トップ画像提供:GEリニューアブルエナジー。

国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の洋上風力発電設備容量はコストの低下、政府の支援、技術の進歩などの恩恵を受け、2025年までに3倍、2040年までに15倍に増加すると予想されています。こうした動向も視野に、GEは欧州有数の研究機関であるフラウンホーファー研究機構(Fraunhofer Institutes)と、産業用砂型3Dプリンターメーカーのヴォクセルジェット AG 社(Voxeljet AG) と協働して、自らが持つ強みを市場に提供することを目指しています。3者はAdvance Casting Cell(ACC)と呼ばれる洋上風力タービン用部材を製造するための世界最大の産業用大型バインダージェット3Dプリンターを開発するため協力しているのです。

 

バインダージェット技術は、レーザー方式の金属3Dプリンターといくつかの点で似ています。レーザー方式の金属3Dプリンターはビームで金属粉の層を溶解し、融合させます。それに対しバインダージェット方式が大きく違うのは、結合剤で材料を固める点です。ちょうどパン職人が生地をまとめるときに卵を混ぜるのとよく似ています。もう一つの違いとしては、バインダージェット方式はレーザー方式よりもはるかに高速でプリントが可能な上、より大きな部材を製造することも可能な点です。

来年初めに予定されている実証試験には、タービンの主要部品(直径9.5メートル、高さ4メートル以内)を成形する金型をプリンティングできる機器が想定されています。これは、従来の鋳造プロセスで最も時間がかかっていた工程を省略することが出来ることを意味します。

バインダージェット・プリンターの仕組み。画像提供:ヴォクセルジェット社(Voxeljet)

それぞれの役割分担は、GEはタービンのノウハウと機器がプリントする部品のデジタル設計図の提供を、フラウンホーファー研究機構はこれから組み込むプリンティングコンセプトの研究開発と実験の実施を、そしてヴォクセルジェットAG社は試作機の設計や内部機構の開発、試作機の作成、そして商品化を担当します。シリアは次のように言います。「私は自分を単なるエンジニアではなく、工業デザイナーであると思っています。私たちはアイデアを持ち寄り、最適解を探していろいろ試してみたいという好奇心に満ちています。そうしてチーム全員でさらに上を目指し、試行錯誤していくつもりです。」

Haliade-Xのような機械の部品を鋳造する場合、従来の技術ではまず実物大の木製の型を手作りすることから始まるうえ、このプロセスだけでも10から12週間かかる場合もあります。つぎに作業チームが樹脂を添加した砂の中にその木型を埋め込み、後で鋳造する部品の凹型枠を製作します。これらの作業全体で数か月を要する場合もあります。

これに対し、3Dプリンティング技術を活用することで、鋳造工程で最も時間のかかる鋳造モデルの工程を省くことができるのです。バインダージェット・プリンターに接続されたコンピューターファイルのデータから直接型枠をプリンティングすることでそれが可能になります。その結果、鋳造品を完成させるまでの期間を最短で約4週間に短縮できます。「鋳造モデルの製作が不要になることで、より自動化された手法で鋳型を製作することが提案できるのです」とシリアは語ります。

このアプローチには他にも多くのメリットが期待できます。鋳造プロセスのスピードアップだけでなく、コストの削減や環境への負荷を軽減することで鋳造産業のサステナビリティもより高めることができます。GEリニューアブルエナジーの洋上風力発電サプライチェーン部門の戦略的イニシアチブリーダーを務めるデニス・レスナー(Dennis Lessner)は次のように述べています。「これは洋上風力発電プロジェクトが受け入れられるために非常に重要な、地域に根ざしたバリューの創造です。各国は単に環境にとってよりグリーンな電力を求めているだけではなく、洋上風力発電がもたらすメリットを知りたがっています。こうした技術があることでGEはこれらの鋳造部品が必要とされる場面でより競争力を発揮します。地元での部品製造を可能にし、急成長する再生可能エネルギー関連業界の恩恵が地元産業にも及ぶようお手伝いすることができるのです。」

また、エンジニア達はこれまでの木製モデルでは実現が難しい、または不可能だった、より大型で軽量な鋳造部品を3Dプリンティング技術で製作できるようになります。つまり、軽量でありながらより大型の、より効率的なタービンを設計できるようになるのです。「これまでの技術では、ある程度大型化すると重過ぎて設置できない、という単純な問題がよくありました」とレスナーは言います。

シリアはこうも語ります。「新しい扉が開かれました。エンジニアリングチームは新たなアイデアを思いついても、製造上の制約から採用されないことが多かったのですが、今まさに思うままに設計できる自由を手にしています。」

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