
垣根を取り払う:インクルージョンと寛容さの重要性を語るGEのチャンドラ・デュライスワミ
クリス・ヌーン
まだ12歳だったチャンドラ・デュライスワミ(Chandra Duraiswamy)は自分がある才能を持っていることに気づきました。周りの人々を惹きつけ、自然にひとつの目的に仕向ける才能です。その日、彼は故郷であるインドのチェンナイで募金活動をしていました。彼は次のように振り返ります。「新しい校舎を建てるための資金集めとしてボリウッド(Bollywood)のようなコンサートを企画したんです。財布を開いてチケットを買ってくれるように、おじさんやおばさんたちを口説いて回りました。」
あれから40年近く経った今、デュライスワミはGEリニューアブルエナジーの子会社であるLMウィンドパワー(LM Wind Power)のコミュニケーション・シニア・ディレクターを務めながら、周りの人々を惹きつけ、ポジティブな変化へと導いています。LMウィンドパワーは風力タービンのブレード製造を手掛けるメーカーですが、彼は自分の担うビジネスがいかに気候変動対策に役立っているかを人々に伝えるだけでなく、GEのレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア、アセクシャル、およびインターセックス(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer, Asexual and Intersex、以下LGBTQAI+)コミュニティの人々と連携し合うことにも尽力しています。そのために、サンスクリット語の古文書からレディー・ガガまであらゆることについて同僚たちと語り合うワークショップ “sensitization and awareness” も開催しています。デュライスワミのワークショップは非常に人気が高く、彼は英語の韻を踏んで「昼間の仕事とゲイの仕事(day job and gay job)」に携わっているとジョークを飛ばします。
とはいえ、デュライスワミは自分のミッションを真剣に受け止めています。彼は次のように説明します。「私は、LGBTQAI+の人々が会社組織全体でより安心感を持てるように、私自身が目配りできる領域を広げ、インクルージョンの意識を高めようとしているのです。」そのように取り組むことは、単に社会的正義の問題にとどまらず、GEの利益にとっても極めて重要だと彼は説明します。デュライスワミは、LGBTQAI+のインクルージョンにまつわるビジネスケースを説明することで、人々の反応がどのように変化するかを目の当たりにしてきました。「彼らは示されたデータを見ると『よし、次はどうすればいい?次の一歩を踏み出すにはどうすればいいのか?』という反応を示すのです」とデュライスワミは語ります。
天職に出会うまで
デュライスワミが自身のキャリアを築き始めたのは2000年代に入ってからでした。1999年、ウェスタン・ミシガン大学で化学工学の修士号を取得した後、米国で化学エンジニアとしてキャリアをスタートさせました。しかし、彼は研究室から外に出て人々とつながりを持ちたいとうずうずしていました。彼は当時を振り返ります。「私は製品のユーザーと話をしたかったんです。私は営業チームがお客様と行う電話会議に同席することはできなかったので、お客様に向けてアンケートを作成しました。」
その一方で、彼は“レッテル”を貼られることを嫌いました。彼は次のように振り返ります。「私は『右脳の人』」や『左脳の人』と決めつけられることすら嫌でした。どうして何事もAかBの2つに分けなければならないのでしょうか?」

デュライスワミの当時の上司たちは、この意欲に満ちた若いエンジニアに特別なものを感じ取り、視野を広げるよう促しました。アドバイスを受けた彼はロードアイランド大学のカレッジ・オブ・ビジネスでマーケティングを専攻し2002年にMBAを取得しました。その後の2年間、ニューイングランド地方で市場調査に携わった後、デュライスワミは故郷が自分を呼んでいるように感じました。彼は次のように振り返ります。「当時、インドのソフトウェア業界ではさまざまな変化が起こっていました。そんな中、祖国で本当に必要とされているものはマーケティングを理解する人材だったのです。」
その後15年間、彼は成長著しいインドのIT業界でさまざまなマーケティングやコミュニケーションの業務に携わってきました。彼は大規模なグローバルセールスキャンペーンを率い、大量のコンテンツを制作する一方で自分のスキルや経験を仲間に伝えてきました。しかしその間ずっと、天性の表現力をもつデュライスワミはなぜか居心地の悪さを感じていました。それは自分のセクシュアリティについてオープンにしていないことが原因だったのです。
しかしながら、2000年代初頭のインドではまだ同性愛は違法でした。同性愛行為は最高で10年の懲役刑に処されるため、デュライスワミはクローゼットの中に閉じこもって悩みました。「ゲイであることをカミングアウトすることで、自分の人生やキャリア、そしてそれまでの努力が水の泡になるのは避けたかったからです」と彼は語ります。
新たな始まり
2015年になると、デュライスワミはある種の天啓を得ました。彼が当時勤めていたIT企業のラインマネージャーで英国在住の米国人が、会社のウェブサイトにプライド月間(Pride Month)に関する投稿を寄せた時のことです。デュライスワミは次のように振り返ります。「それはカミングアウトの物語でした。私はそれを読んでとても心を打たれました。そこで私は『私とあなたは仲間同士です』と彼にメッセージを送りました。」ヨーロッパを拠点とするこのマネージャーは、その意味をくみ取ってくれました。そしてほとんど即座に、彼はデュライスワミのキャリアに新しい目的をもたらす仕事を任せました。それはとりわけLGBTQAI+の人々のインクルージョンと擁護に重点を置きながら、南アジアで働く何万人もの同僚が温かく受け入れられ、安全を感じることができるようにする役目だったのです。
彼はこの仕事に打ち込み、会社の現地法務チームにも人事規定の即時見直しを求めました。しかし「だめです。インドではゲイであることは犯罪です」と言われたことを彼は思い出します。しかし、デュライスワミは諦めず、ある解決策を見出しました。彼は次のように説明します。「何人もの弁護士を招いて新しい規則を作りました。すべての社員が敬意を持って遇され、平等に機会を与えられる規則です。これなら犯罪にはなりません。」その後デュライスワミの提言がきっかけとなり、そのIT企業の南アジア事業の人事規定は見直されることになりました。その結果、組織内のLGBTQAI+の人々がインクルージョンを享受し、守られていると実感できるまでにそう時間はかからなかったのです。
その頃にはデュライスワミ自身もカミングアウトに伴う脅威を感じなくなっており、さらに動きを広めようと考え始めました。「『LGBTQAI+の人々のインクルージョンを、ストレートの人たちに受け入れてもらうにはどうしたらよいのだろう』と考えました」と彼は語ります。そして、会社の上層部を対象にした啓発ワークショップを開催することについて経営陣から承認を受け、彼は念入りに準備を整えました。長年のコミュニケーション経験をもとに、懐疑的な同僚からの質問に答えるための想定問答集も用意しました。この準備作業では、共感や気づきを得るために、時にはゼロから取りかかる内容もありました。デュライスワミは次のように説明します。「そこまでやったのは、私がカミングアウトしたときに周りのインドの人たちから言われたことを思い出したからです。彼らは『同性愛は自然に反するものなのではないのか?精神的に何か悩みを抱えているのか?同性愛は外国人から広まったものだろう?』と疑問を投げかけてきたのです。」
デュライスワミの説明の中には、しばしば南アジアの歴史や文化に言及するものもあります。例えば、インドはエロティシズムと感情的充足に関する古文書『カーマ・スートラ』発祥の地で、文中では同性間の関係を自然で喜ばしいものと認めていると説明します。また、ヒンズー教の古い寺院には同性同士で抱き合っている姿の彫刻もあり、そのスライド写真を参加者に見せることもあります。

垣根を取り払う
デュライスワミが社内のLGBTQAI+コミュニティのために垣根を取り払うのに時間はかかりませんでした。会社のハンドブックに性別を問わない文言を使うよう働きかけ、同性カップルにも保険を提供するための改革を成功させたのです。一方、インド政府の姿勢もその間に変化し、2018年9月、インドでは同性愛は罪に問われないことが決まりました。
2020年初頭、LMウィンドパワーから現在の職務をオファーされたデュライスワミは、自身にとって新たなチャレンジをしました。「『ゲイである人材が経営陣に入ることを歓迎するか』と尋ねたのです」と彼は振り返ります。その答えはイエスでした。そして、デュライスワミは、LMウィンドパワーの経営陣で初めてのオープンリー・ゲイのメンバーになったのでした。
それ以来、彼はGEのプライド・アライアンス(Pride Alliance、PA)社員グループの南アジア支部リーダーとなり、LGBTQAI+にまつわる問題に対する認識を高め、インクルーシブな職場作りを支援し、LGBTQAI+の人材を育成することに尽力してきました。彼はことし6月にインド国内のすべてのGE施設および世界中のLMウィンドパワーの各施設で開催されたプライド・マーチの企画と実施にも協力しました。デンマークのLMウィンドパワー本社のロビーに飾られている多様性を表現したレインボーカラーの風力タービンのブレードがデュライスワミのお気に入りです。
しかし、デュライスワミが目指すのはプライド・マーチやレインボーをテーマにした部品をはるかに超えたところにあります。彼はより多くのLGBTQAI+の人々が管理職に昇進し、インドの各企業がこの地域で最も立場の弱いグループのひとつであるトランスセクシャルへの助言や教育のための予算を増やすことを望んでいます。また、異性愛が性的指向の「正常な」態様であるとする異性愛規範に基づく言葉を段階的に排除するよう働きかけています。「それは私たちの偏見や先入観、あるいは特権を取り除くことを意味します」と彼は語ります。
また、デュライスワミはLMウィンドパワーでも、さらに練り上げられたワークショップ “sensitization and awareness” を実施しています。2021年には50回近く開催しましたが、そのほとんどは新型コロナウイルス感染症の感染対策のためにオンラインで実施されました。1時間のセッションに最大500人が参加し、共感力を高めるエクササイズや生物学の授業、セラピーセッションも行われます。デュライスワミはまず参加者に、誰かから仲間外れにされたりいじめられたりしたときのことを思い出してもらうことから始めます。「私はそれを本題に入る前の掴みに使います。こうすると、みんな心を開いてくれるんです」と彼は語ります。
次いで、ジェンダーとセクシュアリティについての簡単な講義が始まります。「私は、これらが二元的な区分けではなく、スペクトル状に連続するものであることを人々に伝えようとしています」とデュライスワミは語ります。彼はまた、同性愛が病気であるという誤解など、同性愛についての通説が間違っていることを説明します(「同性愛を毛嫌いすることの方が病気ですよ」と彼は主張します)。またアップル社の社長ティム・クックやレディー・ガガなどのLGBTQAI+のヒーローたちの物語も紹介します。「この方たちは、チャンスを与えられたからこそ頂点を極めたのです」とデュライスワミは語ります。
彼はまた、ビジネスケースを説明するためにも十分な時間を割きます。例えば、世界銀行の統計によるとLGBTQAI+コミュニティに対する差別はインド経済に年間約260億ドル(約3兆5,100億円)、つまり同国のGDPの約1.7%に相当する生産性損失をもたらしています。また、インクルーシブな職場では売上高と生産性がより高く、LGBTQAI+に配慮した企業の株式市場でのパフォーマンスは同業他社のそれを上回り、特許の出願件数も多いというデータも豊富に揃っています。さらに、インクルージョンは才能豊かな人材を自社に留めるためにも重要です。ある調査では、フルタイムの従業員の72%が、よりインクルーシブな組織に転職するために現在所属する組織を去る事も躊躇しないことが示されています。デュライスワミはこれについて次のように語ります。「ありのままの自分で働くことができれば、生産性、協調性、そして創造性がより高まります。つまり、よりイノベーティブな製品やサービスを生み出しやすくなるのです。」
2021年にGEプライド・アライアンス(GE Pride Alliance)のアウトリーチ・エクセレンス・アワード(Outreach Excellence Award)を受賞したデュライスワミは、彼自身のストーリーがアウェアネス、インクルージョン、そしてアライシップの重要性の証であることを知っています。彼はまた次のように語ります。「ワークショップのステージに立つたびに自分が生まれ変わっていくような気がします。職場の人たちが私のようにいばらの道を歩かなくてすむようにレッドカーペットを敷くためなら、私はどんなことでもやります。そうすることで私自身にも力とインスピレーションが湧いてくるのです。」