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ボトルネックの解消:GE Aerospaceはいかにして数億ドルにのぼる在庫コスト節減の手法を編み出したのか

ピーター・C・ベラー

新型コロナウイルス感染症による受難の時期を乗り越え、多くの旅行客が空港に戻ってきました。その結果、ジェットエンジンの需要も急増していますが、サプライチェーンが航空宇宙産業におけるサービス提供の機会の妨げとなっています。そうした中、GE Aerospaceのグレッグ・ポソフは、GEがお客様へ確実にサービスを提供できるようにするというミッションを担っています。彼はGE Aerospaceの巨大なサプライチェーンが抱える遅れを洗い出し、それを解消することを使命とするチームの一員であり、今後3年以内にお客様へのオンタイムデリバリーをより確かなものとするための手助けをしています。複雑さ、長いリードタイム、特注部品を単一のサプライヤーから調達することで知られるこの業界にとって、これは難しい注文ですが、この取り組みが成功すれば、適切な場所に適切な量の在庫を割り当てられ、キャッシュフローが大幅に改善される可能性があります。

このチームの取り組みの中核に据えられているのが「Plan for every part(すべての部品について計画を立てる):以下PFEP」です。これは、GEのラリー・カルプCEOの下で浸透させてきたリーン方式として知られる経営哲学のツールの一つです。リーンマネジメントでは、不要な複雑さと無駄を排除し、従業員が日常的に直面する課題を解決するためのツールを提供することを目的として、人材とプロセスにフォーカスを当てることがよくあります。PFEPはこの考え方を部品に応用したもので、多くの製造業では最も高価な部品に対して採用されます。ビジネスマネジメント担当エグゼクティブディレクターの職を担うポソフは次のように説明します。「PFEPを活用することは、実に優れた秩序の確保および優先順位付けをもたらします。お客様への納品の障害となるリアルな課題を解決するために、適切なツールを適切なタイミングで提供するのです。」

このコンセプトは簡単なものに聞こえます。つまり、航空機エンジンを完成させるために重要な部品に優先順位を付け、手元に残す部品数を設定し、部品を製造する工場が在庫レベルをリアルタイムで把握できるようにし、必要な分だけを生産できるようにする、ということになります。もちろん、実際には何百もの製造現場の内部プロセスを変更することは、言うほど簡単なものではありません。

たとえば、カナダにあるGE Aerospaceのブロモン工場を見てみましょう。ジャン・ベランジェがエグゼクティブディレクターを務めるこの工場は、ケベック州モントリオール南東の絵に描いたように美しい田園地域にあります。ブロモンでは、市場での評価が高いLEAPおよびGEnxエンジン用部品を数多く製造していますが、工場のフロアは落ち着いた雰囲気の中、ロボットと作業員が共同でタービンファンブレードやコンプレッサーのベーンの先端金属部などを含むおよそ900種のエンジン部品の鍛造、マシニング、仕上げ、テストを行っています。ベランジェによると、部品の中には製造ライン上を20日間動き続けるものもあるほか、ブロモン工場では毎年数百万個の部品を生産しているため、生産には膨大なプランニングとコーディネーションが必要になります。

ケンタッキー州にあるGE Aerospaceのアーランガー部品ディストリビューションハブ。トップ画像:GE Aerospaceのブロモン工場。画像提供:GE Aerospace

 

GE Aerospaceではエンジン組み立てに遅れが発生する際、ある決まった数個の重要な部品の欠品が顕著に関与していることが判明しました。PFEPは工場内の必要なところに用意すべき各部品の最小数と最大数を設定するツールです。重要なのは、このツールはGE Aerospaceのお客様の工場およびサプライヤーの工場の実際の在庫レベルにもアクセスして、過剰および過少在庫の金額さえも表示できる点です。ポソフは次のように説明します。「私たちの作業場と外部サプライヤーは、この可視化力を利用して、優先順位付けが非常に重要な場面の判断も適確にできるようになりました。」

このようにPFEPツールを活用した一例として、ブロモン工場のベランジェおよび彼のチームは、ケンタッキー州アーランガーにあるGE Aerospaceの広大な部品ディストリビューションハブに自社製品がいくつあるかを確認し、それに応じた生産計画を立案できるようになりました。これは、ベランジェの小規模ながら高度に自動化された施設にとって、哲学的な転換となりました。従来は、600人の従業員と280台のロボットで最大限の部品を生産することが唯一の成功の定義であるというシンプルな前提が重視されていました。PFEPが導入される前、ベランジェと部下のマネージャーたちは何よりも遅延率、つまり納品がどれだけ遅延したかを何なによりも徹底的に追っていました。現在では、出荷した部品が一つ残らずオンタイムに到着したかだけではなく、適切な部品が必要な目的地にどの程度の頻度で到着するかも報告されるようになりました。

ベランジェは次のように話します。「PFEPで気に入っている点は、アーランガーにある在庫がどの程度かということがはっきりわかることです。これによりパフォーマンスも計測できます。例えば、許容可能な最小および最大範囲内にあるすべての在庫のパーセンテージなどの指標も把握できるということです。」

CFM LEAPエンジン。画像提供:CFMインターナショナル

 

PFEPのもう一つの目標は、既に生産されたまま棚に眠っているものを活用し、数億ドル相当の在庫を削減することです。ベランジェによると、ブロモン工場が今年2月にこのツールを使い始めるまでは、ブロモンで製造された1千万ドル以上の在庫がアーランガーの施設に移されて保管され、エンジンに組み立てられる日を待つ状態だったというのです。それまでは、作業チームにはアーランガーにある在庫を部品番号を使って確認する手段がなかったうえ、お客様の観点からも、どの部品をいつ出荷する必要があるのかもわかりませんでした。つまり、これらすべての部品が滞留していることで、GE、ひいてはお客様にも損失を及ぼしていたのです。しかし、PFEPが導入されると、5か月で在庫額は400万ドルにまで削減されました。今ではブロモン工場の生産システムはデジタル的に統合され、どの部品が在庫の最小レベルまたは最大レベルに達したか、またアクションを必要とする場所はどこか、従業員に通知されるようになりました。

PFEPが重大な部品不足の解消にどのように役立ったかを示す事例が最近ありました。GE Aerospaceのマサチューセッツ州リン工場の特殊ロボットが故障し、アパッチおよびブラックホーク軍用ヘリコプターに搭載されるT700エンジン向けの冷却プレートが製造できなくなりました。これにより、エンジンの組み立ても中断されました。その一方で、ニューハンプシャー州フックセットにあるGE Aerospaceの別の工場では、同種のロボットを使用するラインで過剰な数量の部品が生産されていることをPFEPツールが示しました。そして、フックセットのこのロボットには、リンで故障したロボットに必要なスペアパーツが備わっていました。このような可視化によって、フックセット工場は生産ラインをいったん停止し、必要なスペアパーツをリン工場の仲間に移植し、ロボットを再び稼働させることができました。ポソフは次のように振り返ります。「お客様の需要を満たすために共通の関心を持って施設全体で素晴らしいチームワークが発揮されているのを見るのは、どれほど驚くべきことだったか。すべてはPFEPツールによってもたらされる可視化力によって実現されました。」

ほかの一例としては、ポソフが最近、イタリアのポミリアーノ・ダルコにあるGE Aerospace傘下のアビオ・エアロの施設に立ち寄った際のことが挙げられます。驚いたことに、そこでは最近、作業員が自分たちでPFEPの演習を実施し、社内工程間で手元に置くべき在庫の量を決定していたのです。その結果、現場の作業員たちは気づいた時点ですぐに判断できるようになり、最終的に彼らは在庫が最低限以下に陥る部品を一掃することができました。「これこそが私にとって、正にエキサイティングなことでした。オペレーターや現場のリーダーたちは、お客様の需要によりよく応えるために、日々の決断を下せるようエンパワーされたわけですから」とポソフは語ります。

GE Aerospaceはすでに、デジタル技術を活用する能力を継続的に強化するための強固なロードマップとともに、PFEP可視化ツールを全工場に展開しています。このデジタルスタンダードは、アプリケーションの一貫性を確保し、エンドカスタマーまでのサプライチェーンにおけるデリバリーパフォーマンスを常に最大化することに貢献しています。

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