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巨大な黄色い箱:北海における洋上風力発電の新時代を支える長距離HVDC送電

グレガー・マクドナルド

2022年5月、ドイツ、デンマーク、オランダ、ベルギーの4カ国は安定した風力に恵まれた北海の洋上風力発電施設を増強する意向を明らかにしました。現在の20GWの発電容量から、2030年までに少なくとも65GWへ増強する予定です。技術が進歩し、各国が化石燃料への依存を減らしてネットゼロ達成を急ぐ中、洋上風力発電産業がかつてないほど急成長していることを示す新たな兆しです。しかし、洋上風力発電所が遠く離れている場合、効率的な送電のためにはその距離が障害になることも多々あります。そこで出番となるのが高圧直流送電(High-Voltage Direct Current:以下HVDC)システムです。HVDCは最も高効率かつ経済的な長距離送電を可能にする上、既存の送電網への統合性にも優れたソリューションです。

このたび、GEグリッドソリューションは、オランダとドイツの沿岸部および沖合の2つのコンソーシアムに対して今後も増加する洋上発電需要に対応できる新たな送電網の設計と構築を支援することになりました。オランダでは、GEとセムコープ・マリン社が3つの洋上HVDCプロジェクトを展開する枠組み協定を締結しました。また、ドイツではGEがマクダーモット社と2つのプロジェクトで提携することになりました。セムコープ・マリンとマクダーモットの両社はGEと共に、北海プロジェクトの約10GW分の電力に携わる最新のHVDCソリューションを提供する予定です。また、今回の2つの枠組み協定を合わせると約100億ユーロ(約1.47兆円)となる予定です。

「これはオランダとドイツだけでなく、ヨーロッパ全域のエネルギー転換にとっても大きな一歩です」と語るのはGEグリッドソリューションのグリッドシステム インテグレーション ビジネスリーダーであるヨハン・ビンデレです。ビンデレはGEのチームを率いて、海岸から最大160km離れた海域に建造される約525kV、2GWのコンバーターシステム5基の設置を支援し、直流(DC)電流を海底ケーブルで送電するプロジェクトの一翼を担います。この新たな洋上送電網は、ヨーロッパにクリーンな電力を供給するために欠かせないものとなります。

GEグリッドソリューションのエグゼクティブ コマーシャル リーダーを務めるニール・ビアズモアも、HVDCは100kmを超える距離では高電圧の交流(AC)電力よりも効率が高く、電力損失を最大50%低減し、3倍以上の電力を送電できる技術だと説明します。しかし、HVDCを利用するためには、海上に設置されるコンバータープラットフォームでいったんAC電力をHVDCに変換する必要があります。その後、HVDCケーブルシステムで送電し、陸上でAC電力に再変換することで初めて陸上の送電システムに接続できるのです。

GEは、コンバーターシステムの設計および構築を担当します。今回のプロジェクトのコーディネーターであるオランダ-ドイツの送電システム運営企業テネット社は新たな送電網システムを設計しました。これは、洋上風力タービンで発電した電力を、ビアズモアがその特徴的な設計と威容から「ビッグ・イエロー・ボックス」と呼ぶ2GWのコンバーターステーション群に集約するシステムです。ビンデレとビアズモアによれば、今回のシステム自体が一種のブレークスルー テクノロジーです。というのも、これまでの洋上コンバーターステーションは設計もサイズも統一されておらず、送電容量は現在でも0.7GWから1.2GWにとどまっていたからです。テネット社は業界に規格の標準化を導入することが重要だと認識していました。また、ビアズモアは、GEが持つ2GWの送電容量は業界に最適化・標準化された設計をもたらし、技術レベルも次の段階に引き上げることができると話します。

トップ画像および上画像: 900MWのDolWin3コンバーターステーションが、ドイツ沿岸の沖合にある2つの風力発電所と陸上送電網を繋ぎます。画像提供:GEリニューアブルエナジー インフォグラフィック提供:GEグリッドソリューション

ビアズモアは次のように説明します。「ビッグ・イエロー・ボックスの内部には、GE製の高電圧機器が組み込まれています。これには変圧器(トランス)、バルブ、制御装置、保護システムなどが含まれます。陸上の変電所と遜色はありません。」また、各コンバーターステーションが備える2GWの送電容量は、平均的な規模の原子力発電所1基分にとどまらず、2基分に相当します。さらに、風力発電による発電量の増加に対応するには十分な容量であると同時に、HVDCケーブルが処理できる限界まで送電量を増加させることも可能です。ビンデレも次のように説明します。「技術的にはGEにとって新しいものではありません。ただ、この容量は業界がこれまでに経験してきたものよりもはるかに規模が大きいのです。」

テネット社は、コンバーターステーションの設計を「2GWプログラム」と命名し、実際に名称として用いています。ビアズモアとビンデレによれば、2GWという新たな業界標準となる容量は、ケーブルメーカーからGEのようなHVDC変換におけるスペシャリスト企業に至るまで、サプライチェーンのあらゆる部分で今後も普及していく業界標準容量になると予想されることから、まさにふさわしいプログラム名だと言えます。風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギー関連技術がメーカーに突きつけている課題のひとつは、技術進歩があまりにも急速であることから、近年の設計でもすぐに旧式となってしまう場面が多いことです。こうした事態をできるだけ避けるために、特に大型設備メーカーにとっては、ビアズモアの表現を借りれば「大量のクッキーを毎回おいしく焼くのと同じように、決められたレシピが必要」なのです。

テネット社の「2GWプログラム」を導入することは、今回の枠組み協定の入り口に過ぎません。ビアズモアによると、より大きなビジョンは、この新世代の洋上送電網が、ゆくゆくはより遠く離れた英国やスカンジナビア、さらに遠方のヨーロッパの送電網と連系するインターコネクターの一翼を担い、最終的には複数の送電網ターミナルの間で異なる地域、複数の国へ送電可能なHVDC送電網を構築することだと言います。テネット社が提案する2GWシステムの標準化により、送電モデルにおいてシナジー効果と高効率化が図られ、商業的にも技術的にもメリットがもたらされるのです。

洋上送電網が新しい局面を迎えたのは、ヨーロッパが2022年のエネルギーショックから立ち直りつつ、その脆弱性がまだ記憶に新しいタイミングでした。ヨーロッパ大陸はCO2ニュートラルを目指し、化石燃料およびロシア産天然ガスによる発電を低減する決意を明確にしています。国際エネルギー機関(IEA)は昨年、2022年のショックはエネルギー転換を加速させる契機となったと結論付けました。ここに一つの証左があります。欧州ヒートポンプ協会(The European Heat Pump Association)によると、2022年にヨーロッパでは300万台のヒートポンプシステムが販売され、これは2021年比で40%近く増加したことになります。ヒートポンプは電気を使いますが、エネルギー効率が高いため家庭用暖房における電力消費を大幅に減らすことができます。とは言え、ヨーロッパが天然ガスや石油への依存低減を急ぐに従って、電力需要は増加することになります。洋上風力発電の積極的な導入計画を性急と見る向きもあるかもしれませんが、2050年までに「クライメート・ニュートラル(気候中立)」を達成するというEUの長期目標には、クリーン電力の迅速な増強が不可欠なのです。

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