
エンジニアの喜び: GE Aerospaceとボーイング、NASAのコラボレーションが「新しい空の旅」を切り開く
チェルシー・リヴィングストン
「SAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な航空燃料:以下SAF)」と「新たなテクノロジー」のそれぞれに熱い想いを持つ「スーパーファン」が団結する時がやってきました。CO2排出量の低減に向けた取り組みが進む航空業界では、この両方が必要とされています。
1つ目の「SAF」はその生産方法からCO2排出を削減することができるため、石油系ジェット燃料に置き換わる存在となる可能性があります。さらに、2050年までに航空業界のCO2排出ネットゼロを実現するという目標に向けて、SAFを活用することは最も大きなインパクトをもつ可能性があります。
2つ目の「新たなテクノロジー」としては、より燃費に優れた航空機やエンジンが開発され、従来のジェット燃料とSAFの双方の消費量削減に貢献しており、これらも重要な役割を担っています。
世界のCO2排出量のうち、航空産業が占める割合が約2%であることを踏まえると、SAFと新たなテクノロジーの開発を巡る両陣営が互いに協力することは急務である、と米国の航空業界に大きな影響力を持つ人々は感じているのです。
その中の一人、NASAのグレンリサーチセンターのジョセフ・コノリー エアロスペース担当エンジニアは次のように説明します。「2050年の目標を達成するためには、私たちは皆、自分の専門分野とパッションをもつ『スーパーファン』になる必要があると思います。困難が伴い、かつチャレンジングな2050年までにネットゼロの排出目標を達成するには、私たち全員がそれぞれ得意とする分野で力を尽くすことが必要なのです。」
2022年12月のSustainable Aviation Futures North America Congressにて、GE Aerospaceのエグゼクティブハイブリッド電気推進システムリーダーを務めるクリスティン・アンドリュースとNASAグレンリサーチセンターのジョセフ・コノリー エアロスペース担当エンジニア。画像提供:Sustainable Aviation Futures. トップ画像:今年1月3日、GEnxエンジンは100%SAFを用いた地上試験を完了しました。この地上試験は、NASAとの協力により、同エンジンをボーイング787-10に搭載した状態で実施されました。このようなテストは、SAFについての理解を深め、従来のジェット燃料と比較して大気環境にどのようなプラスの影響を与え得るかについての理解を深めるのに役立ちます。画像提供:ボーイング
コノリーもプレゼンターの一人として登壇したのが、2022年12月にサンフランシスコで開催されたSustainable Aviation Futures Congress North Americaです。ここではGE Aerospaceやボーイングを含む機器メーカー、燃料生産企業、業界団体、NASAなど政府機関などが一堂に会しました。
しかし、SAFと新たなテクノロジーの双方とも大きなポテンシャルを秘めている一方で、それぞれが大きな課題に直面していることも明らかになっています。
求む: より多くのSAF供給
SAFの供給量は増加しつつあるものの、そのペースは限定的で、目下の生産量は世界のジェット燃料需要の1%にも届いていません。実際に、進展した側面も数多くあげられましたが、航空業界はSAFなしでは脱炭素化の目標に到達することが不可能であることを各プレゼンターは強く訴えました。
この10年超を振り返ると、ボーイングとGE AerospaceはSAFを用いた飛行実証実験を何回も実施してきました。その中には、2008年にGE製CF6エンジンを搭載したヴァージンアトランティック航空がボーイング747で行った業界初のバイオディーゼル燃料を用いた商業デモンストレーション飛行があります。2018年には、フェデックス・エクスプレスが保有するボーイング777をエコデモンストレーター実験機として使用し、搭載したGE90エンジン2基とも100%SAFを使用する初の民間商用機によるフライトを実現しました。さらに2021年には、ユナイテッド航空が保有するボーイング737MAX8を使用したフライトでは、同機が搭載するCFMインターナショナル製造のLEAP-1Bエンジン*2基のうちの片方の1基でSAF100%の初の商業運航を実施しました。
GE AerospaceとCFMインターナショナルの現行エンジンはすべて、植物由来の原料や油脂、グリース油、アルコール、処理済み廃棄物、回収したCO2、およびその他の代替原料から抽出することが可能な認証を受けたSAF混合燃料で運用することができます。SAFは、現在最も一般的に使用されているジェット燃料と同じ化学組成を持っています。ですが、大きく違う点は、SAFは化石燃料から作られるのではなく、より再生可能な資源から作られることです。そのため、代替原料や代替プロセスを投入することで、化石燃料と比較した場合、生産、処理、および流通における燃料のライフサイクル中のCO2排出量を削減することが可能なのです。
さらに、現在認証済みのSAFはすべて「ドロップイン(drop-in:簡単に交換できる)」対応となっています。つまり、従来のジェット燃料の代替となりうるため、航空機の装備や燃料補給インフラに改修を加えることなく使用可能なことも利点となります。
ごく最近では、ボーイングのエコデモンストレーター・プログラムとNASAの協力のもと、SAFの燃焼が粒子状物質(PM)などの排気に与える影響について検証するテストが実施されました。このテストプログラムの実施に際して最初に使用された航空機は、2021年ボーイング・エコデモンストレーター実験機となったアラスカ航空737-9で、CFM LEAP-1Bエンジンを搭載したものでした。2022年秋には、ボーイングとNASAのチームが、GEnxエンジンを搭載したボーイング787で50%のドロップインSAFと100%の非ドロップインSAFを使った地上排気テストを完了しました。
ボーイングのシェイラ・レメス(Sheila Remes)環境サステナビリティ担当バイスプレジデント。画像提供:Sustainable Aviation Futures
ボーイングの環境サステナビリティ担当バイスプレジデントであるシェイラ・レメスは次のように説明します。「私たちにはサステナブルな燃料が必要です。航空需要は無くなりません。旅に行きたいと思う人は多く、私たち航空業界は責任を持ってその移動手段を提供しなければなりません。SAFの使用は、航空機利用の増加を可能にするために欠かせない中核となります。私たちがフォーカスすべき点は、エネルギーの源を転換し、より効率的な航空機の開発を中心としたイノベーションを続けることです。」
電気推進システムの普及を目指して
テクノロジーの点からみると、今まで推進力の更新を行ってきたどの時代と比べても、フライトに伴うCO2排出量削減をさらに進める画期的な推進システムを開発することは非常に大きな課題となっています。
これに対応する有望なアプローチの一つが、電気推進システムを利用するフライトを普及させることです。そのため、電動パワートレイン飛行実証(EPFD: Electrified Powertrain Flight Demonstration)プロジェクトを通じて、NASAとボーイングそしてGE Aerospaceは連携してハイブリッド電気推進システムによる商業飛行に向けて取り組んでいます。
NASAとGE Aerospaceは、メガワット級の統合型ハイブリッド電気推進システムの開発で協力しており、2020年代後半にGE製CT7エンジンを搭載したターボプロップ機「サーブ340B」でテスト飛行を実施する予定です。ボーイングとその子会社であるオーロラ・フライト・サイエンス社(Aurora Flight Sciences)は試験機に改造を施し、システム統合とテスト飛行サービスを実施します。また、この取り組みには、ナセルの製造、フライトデッキ・インターフェースの設計、ソフトウェアや航空機全体の性能分析、およびシステム統合作業も含まれます。
NASAのコノリーは次のように説明します。「Jet-A燃料、SAF、水素燃焼、あるいはバッテリーや燃料電池を利用するかどうかにかかわらず、これらの航空機の推進システム内のサブシステムやその他のコンポーネントの電化は、将来的にもっと進むことでしょう。」
ハイブリッド電気推進テクノロジーはエンジン性能を向上させ、燃料使用量とCO2排出量の双方を削減するのに役立ちます。さらに、ハイブリッド電気推進テクノロジーには、SAFや水素などの代替燃料やオープンローターエンジンなどの先進的なエンジンアーキテクチャとの併用が可能であるあることも評価されています。
GE Aerospaceのエグゼクティブ ハイブリッド電気推進システムリーダーを務めるクリスティン・アンドリュースは次のように述べています。「これはエンジニアにとって実に大きな喜びとなります。ハイブリッド電気推進システムそのものの開発だけでなく、認証、耐空性、品質、パワーエレクトロニクス、およびこれまで十分にカバーしきれなかったコンポーネントなどの隣接する領域においても、テクノロジー開発の新たな景色が見られるのですから。」
「この分野で前進することは本当にエキサイティングなことです。私たちのパートナーであるNASAやボーイングと共に歩んで行けることは、本当に胸が躍る体験です」とアンドリュースは語ります。
GE Aerospaceは、EPFDプロジェクトを通じたハイブリッド電気推進エンジンシステムの開発にとどまらず、サフラン・エアクラフト・エンジンと共同でCFM RISEプログラムを通じて同推進システムの性能およびその他のテクノロジーを実証することも予定しています。CFM RISEプログラムが掲げる目標は、従来のジェット燃料を使うジェットエンジンの中で現在最も高効率なタイプと比較しても、燃料消費量を少なくとも20%低減し、CO2排出量も20%削減を目指すような技術を開発することです。
いずれにしても、SAF、新たなテクノロジー、あるいは他のどのようなアプローチであれ、2050年までにネットゼロ排出を実現するという目標を可能にするためには、産業界の垣根を越えて取り組むことが必要です。
ボーイングのバイスプレジデントであるレメスは次のように語ります。「私たちはイノベーションに取り組み続けます。それが航空業界に携わる者の責務です。エネルギーやテクノロジーについて学び、テストし、安全であることを確認するのです。」
* CFM LEAPエンジンは、GEとサフラン・エアクラフト・エンジンが50:50で共同出資している合弁会社、CFMインターナショナルの製品です。