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未来を見据えて:米国政府、ガスタービンの熱効率向上と水素利用の推進に向けてからGEへ助成金

ウィル・パルマー

これまで何十年もの間、世界中の電力会社は天然ガスを燃料とするタービンを使って発電してきました。初期の発電技術よりも高効率で、CO2排出も抑えながら家庭の電力をまかなえるという特徴を最大限に生かし、電力会社はガスタービンを活用してきたのです。

さらに、ガスタービンそのものも進化しています。たとえば、GEの最新鋭ガスタービンである7HAと9HAを見てみましょう。2014年に初めてコンバインドサイクル発電所にGEのHAテクノロジーが投入されて以来、その熱効率、つまり燃料を電力に変換する効率は初めて60%を超えました。(コンバインドサイクル発電所は、発電するガスタービンから出る廃熱を回収して水を沸騰させ、蒸気を生成し、さらにその蒸気で蒸気タービンを回して発電することで、熱効率を高めた発電所のことです。)2016年にフランスの発電所が導入したGE製9HAガスタービンが熱効率62%を突破し、その後すぐに7HAガスタービンを導入した日本の発電所では熱効率63%以上を実現しました。これらは現時点での世界最高記録となっています。

そして今、GEと米国エネルギー省はタービンの熱効率をさらに向上する新しい手法を探るべく取り組んでいます。今週、同省のエネルギー高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency-Energy、以下ARPA-E)は、ガスタービン由来のCO2排出量を削減するための研究に対し、GEガスパワーに420万ドル(約5億6千万円)の助成金を供与しました。この助成金は、脱炭素エネルギーシステムを支える転換技術の開発を最優先に据える「ARPA-E OPEN 2021」プログラムの一環です。ARPA-Eが助成金を供与する今回の研究が成功すれば、タービンの製造に必要なエネルギーを削減すると同時に、熱効率を65%以上にまで改善することに役立つ可能性もあります。また、炭素を含まない燃料である水素を活用できることでも注目されています。

今回供与された助成金は、期待されている2つのプロジェクトに充当されます。1つ目は、天然ガスと水素を燃料とする先進的なガスタービンのための新しい「浮き上がり火炎(lifted-flame)」燃焼方式を研究するものです。リフテッドフレーム方式では、燃焼器内の火炎が噴射装置に触れないことが特徴です。この方式はCO2排出量を削減することができる上、乗り越えるべき他の課題も克服できる可能性があります。

今回の新たな燃焼技術の予備試験は、エンジニアリングとガスタービン燃焼の分野で有数の研究大学として知られるジョージア工科大学(The Georgia Institute of Technology:ジョージア州アトランタ)で実施される予定です。その後、研究はサウスカロライナ州グリーンビルにあるGEのガスタービン・テクノロジーセンター(GE’s Gas Turbine Technology Center)に引き継がれる予定です。

また、今回の研究により、燃焼時にCO2を排出しない水素燃料の利用拡大にもつながる可能性があります。GEはすでに水素を活用したプロジェクトや研究開発のリーダー的存在であり、オハイオ州の電力会社数社やニューヨーク州2つの発電所、さらには米国外においてもこれまで5%から10%程度の水素を燃料に混合するプロジェクトに取り組んでいます。特に注目されているのは、再生可能エネルギー由来の電力を活用して水分子を分解し、酸素と水素を製造するグリーン水素の開発です。それにより、燃料製造時や燃焼時のCO2排出がゼロの発電が可能になります。

GEガスパワーの脱炭素化関連エマージェント・テクノロジー・ディレクターを務めるジェフリー・ゴールドミア(Jeffrey Goldmeer)は次のように説明します。「ARPA-Eの助成金供与によって生み出される見込みのテクノロジーは、水素濃度の向上と燃焼後のCO2回収アプリケーションに変革をもたらす可能性があります。今後10年間でガスタービン・コンバインドサイクル発電所の熱効率を5%以上改善することを目指しており、GEのテクノロジーはエネルギー転換の先導役になるでしょう。」

そして、2つ目のプロジェクトは産業用ガスタービンのガス炉と金属部品の鋳造に関するものです。GEのチームは精密鋳造企業のDDMシステムズ社(DDM Systems)と協力して、3Dプリンティングで制作したセラミック鋳型技術を投入したいわば「デジタル鋳造所」を実現し、「インベストメント鋳造(※)」と呼ばれる技術で鋳造を劇的に近代化する予定です。これにより、従来に比べ10倍もの速さ、90%少ないエネルギー、そして半分のコストで鋳物を製造することができると考えられています。

※インベストメント鋳造:精密鋳造法の一種。ろうあるいは可燃性材料で模型を製作し、微粉耐火物の泥状混合物を流し込む。乾燥後に鋳型ごと焼成し、模型を溶融流失あるいは分解させた後、できた鋳型に溶かした金属を流し込み鋳物を製造する。出典:日本機械学会ウェブサイト

ARPA-Eが助成金を供与するこれら2つのプロジェクトの将来性を考えた場合、GE製ガスタービンの効率と、水素対応機能をさらに向上させることができます。さらに、こうした技術を投入した製品を製造するために必要なエネルギーも削減できる可能性があります。

トップ画像:サウスカロライナ州グリーンビルのガスタービン テクノロジーセンター。画像提供:GEガスパワ

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