
アディティブ革命:GE株主が金属3Dプリンターが描く未来の工場を見学
近くの幹線道路からは、ピッツバーグにあるGEアディティブのカスタマー・エクスぺリエンス・センター(CEC)の灰色で低層の建物は米国の郊外に点在する新しい工場と同じようなものにしか見えません。しかし、一歩中に入ってみるとまるで時間旅行をしているように感じられるかも知れません。なにか未来映画のセットのように、広大で明るい空間に洗練された白黒の箱が沢山置かれ、静かに低い音を立てています。その内部の強力なレーザーと電子ビームが、ジェットエンジン、発電所、石油リグなどの機械向けの複雑な金属部品を3Dプリントしているのです。
2016年にオープンしてからこのセンターにはさまざまな人々が訪問しています。GE幹部、ボードメンバー、顧客、政治家、業界団体が国内から、また全世界からやってきます。そして今年の年次株主総会の会場になったこのセンターには多くの投資家、マスコミ関係者、来賓が訪れました。
経営へのインパクトを考えればセンターへの道のりが遠くても訪問する価値はあります。金属3Dプリンティングのようなアディティブ・マニュファクチャリング(付加製造)は企業の設計、製造のあり方を変えます。GEはこの分野に投資し、新規事業である「GE アディティブ」を立ち上げ、金属3Dプリンターを製造するコンセプト・レーザー製のレーザー式およびアーカム製電子ビーム式の装置だけではなく、3Dプリンティングに使用する専用金属紛体を製造するアーカムの過半数株式を取得しました。
第一画像および上部画像:ピッツバーグのカスタマー・エクスぺリエンス・センターでのコンセプト・レーザープリンターのライン。画像クレジット:GE アディティブ
GEは金属3Dプリンティングへの投資を有効に利用しています。GEはすでに25,000個以上の3Dプリンターで量産したさまざまなパーツを出荷しています。「GE Catalyst」と呼ばれる最新ターボプロペラエンジンでは、構成部品の1/3以上が、さまざまな金属から3Dプリントされているなど、新製品を開発するためにもこの技術が活用されています。この製品を設計したエンジニアは3Dプリンティングを使用して初期設計と試作・製造とテストを素早く繰り返したことで、エンジンの開発期間を従来では6年かかるものを、2年にまで著しく短縮することができました。過去には、「本当にこんな形状のパーツが量産できるのか』、と常に自問していました。」とエンジン設計者の一員のファブリジオ・ブッシは話しました。「現在ではすでにこのような制限はなくなり、以前は非常に複雑に見えた形状が金属3Dプリントのおかげで今では完全に量産が可能になりました。従来の製法から解放され、自由度を広げて最適な設計を達成することが設計者のベンチマークになりました。」
今日のGEのエンジニアは、試作品作成のための迅速で比較的安価で有効な方法であるという理由だけではなく、最終製品を量産することができるという理由で、金属3Dプリンティングを大いに使用しています。金属3Dプリンティングで量産された燃料ノズルが装着されたジェットエンジンはすでに商用旅客機で使用されています。例えばこのようなパフォーマンスの高い3Dプリントされた燃料ノズルの内部形状は非常に複雑なので、従来では製造が不可能かあるいは非常に困難でした。「従来の成功体験や実績で確立された製造手法に従う必要は、もうなくなりました。」とブッシは話しました。「3Dプリンティングを量産体制にまで持っていけるGEのアディティブ・マニュファクチャリングはそれほど新しく、またそれほど革命的なのです。付加製造を採用すれば心を解き放ち、設計も大幅に自由になります。これは爽快です。」
ピッツバーグCECに設置されている金属3Dプリンターの多くがアーカムとコンセプト・レーザー製で、金属粉の薄い層を融着して結合し思い通りの形状にすることによりコンピューター設計ファイルから直接、パーツを3Dプリントできます。同CECの他の造形装置では、巨大な金属パーツの鋳造のために巨大な入り組んだ砂型のプリントに砂と専用結合剤を使用したり、また別の造形装置では樹脂材料でも造形しています。
ピッツバーグCECの3Dプリンターは、その多くがアーカムとコンセプト・レーザーによって製造され、金属粉の薄い層を融着して結合し思い通りの形状にすることによりコンピューター設計ファイルから直接、パーツを3Dプリントできます。画像提供:GE アディティブ
ピッツバーグとドイツのミュンヘンにあるCECを運営するジェニファー・チポラは、この施設がGEの事業に貢献するだけではなく、エキスパートとの共同作業、ワークショップへの参加、GEの3Dプリンターの試用によってアディティブ・マニュファクチャリングを顧客が学び、習得することに大いに貢献していると話しました。「2年に満たない短い期間で、3Dプリンティングについての話題は、『なぜこの製法を活用すべきで、なぜ重要なのか?』という問いの多かった状況から、『競合相手はすでに活用しているのに、当社は出遅れている。この遅れをどのように取り戻せばよいのか?』という危機感に変わりました」と、チポラは話します。
競合他社はすでに活用を始めており、無駄にできる時間は無くなってきているのではないでしょうか。例えばGEの航空機事業の子会社であるアビオ・アエロはイタリアのミラノ近郊のカーメリ市で、すでに3Dプリンティングの製造工場を運用しています。ここでは世界最大のジェットエンジンであるGE9X向けのタービンブレードを量産しています。GEアディティブはオハイオ州シンシナティにもアディティブ・テクノロジー・センターを新しく建設しました。ここではコンセプト・レーザー製の世界最大の金属3Dプリンターが最大数備わっています。他の顧客は、カスタマイズ化された頭蓋骨のインプラントや外科器具、自転車部品や、さらに最高級歯ブラシの製造などに3Dプリンターを使用しています。用途には限界がないのでは、という錯覚にとらわれることもあります。
乗り手ごとにオーダーメイドが可能な3Dプリント製の電気マウンテンバイクを開発したキナゾ社のパトリック・ポール氏は「通常の製造プロセスを使っていては、このような複雑形状の一体製造は全く不可能です。顧客のサイズに合わせて自転車を直接手作りすることは単純によいことで、さらに各個人に合ったものにできます。顧客の体に完全に合った自転車の誕生です。」と話しました。