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ジェット燃料もサステナブルに:世界中の空港にSAFの普及を目指すGEのエンジニア

ウィル・パルマー

グルハン・アンダック(Gurhan Andac)はトルコのアンカラで育ち、大型船舶や機関車を設計することを子どもの頃から夢見ていました。しかし、大学4年の講義中に教授が見せたガスタービンジェットエンジンの動画を見て考えを変えました。海外の大学院に進学することを決意し、南カリフォルニア大学(以下USC)の工学研究科に入学したのです。そして彼は、自分が今後、何をどう学んだらよいかを尋ねるためにGEに手紙を書き、アドバイスを求めました。GEはいつか自分がキャリアを積める場所になるだろうと思ったからです。彼の問い合わせに対しGEの担当者は「そういうことなら今すぐにでもGEに応募し、一緒に働きませんか」と返信してきたのです。

GEのこのオファーに気を良くしたアンダックは10年かけて実行に移しました。彼の10年後の履歴書にはUSCの修士号と博士号取得も加わり、さらにUSCで博士課程修了後の研究員として機械工学に携わった実績も記されていたのです。GEに入社すると、彼はGEアビエーションの本拠地であるシンシナティに移り、ヴァージンアトランティック航空と協働してジェットエンジンの燃料としてのバイオ燃料利用の可能性を研究するチームに加わりました。「ここでの仕事も大好きでした。それだけではなく、少なくとも私にとっては、自分の人生をかけています」とアンダックは振り返ります。

アンダックの場合、この言葉は決して使い古された決まり文句ではありません。今ではGEアビエーションの航空燃料と添加剤のエンジニアリングリーダーを務めるアンダックは、バイオ燃料やエンジン用合成燃料といった「持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel、以下SAF)」の研究に携わっています。彼が率いるチームはこれらの燃料がどの程度良好にエンジンを動作させるかを研究したうえでその利点を定量化し、各航空会社にSAFの利用を促しています。「SAFとは私のチームが単なるプロジェクトとして研究しているものではなく、実際にその商業利用が始まっているものです。すでに一部の航空機はSAFを混合した燃料で空を飛んでいます」とアンダックは言います。事実、航空業界のサステナビリティを推進するグローバル連合「Air Transport Action Group(ATAG)」によると、すでに37の空港でSAF混合燃料が航空会社やオペレーターに供給されており、2011年以降民間航空機のフライトのうち37万回近くで利用されているのです。

トップ画像:カリフォルニア州上空にて、GEアビエーションのフライング・テストベッド機で持続可能な航空燃料(SAF)を使用したフライト中の一コマ。「SAFとは私のチームが単なるプロジェクトとして研究しているものではなく、実際にその商業利用が始まっているものです」とグルハン・アンダック(上画像)は語ります。画像提供:GEアビエーション

より多くSAFを活用する道をアンダックが追求することはまさにタイムリーな使命と言えます。2018年の世界の航空会社の搭乗旅客数は約43億人でした。国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)によると、2040年までにその数は100億人に達すると予測されています。航空業界がカーボンフットプリントを削減するためには、より効率的なエンジンやクリーンな燃料の導入など、さまざまな要素を組み合わせていくことが求められます。

今年はエンジン技術の面でも良いニュースがありました。GEアビエーションとサフラン・エアクラフト・エンジンズ社(Safran Aircraft Engines)が50:50で共同出資しているCFMインターナショナル(CFM International)は今年の夏にCFM RISE(Revolutionary Innovation for Sustainable Engines)プログラムを発表しました。RISEプログラムでは、オープンローター設計やハイブリッド電気推進システムなどの技術を開発し、2030年代半ばまでにエンジンの燃料効率を20%以上向上させることを目標としています。

しかし、世界がサステナブルなフライトという目標を達成するためにはより効率的なエンジン開発だけでは不十分です。9月9日、バイデン大統領は2050年までにCO2排出ネットゼロ経済を実現する取り組みの一環として、「2030年までにSAFを少なくとも年間30億ガロン(約113億6千万リットル)生産し、さらに2050年までに年間約350億ガロン(約1,325億リットル)と予想されている航空燃料需要の100%すべてをSAFでまかなうことを目標とする「SAFグランドチャレンジ(Sustainable Aviation Fuel Grand Challenge)」を発表しました。

アンダックはこの目標は現実的ではあるもののやるべきことはたくさんあると言います。現在、航空機が消費する燃料のうちSAFは1%にも満たないのですが、2025年には航空業界が燃料の2%をSAFに代替する段階に達すると彼は考えています。「おそらく10年から15年後には従来のジェット燃料の10%がSAFに置き換わるのではないでしょうか。このペースでは遅いと感じられるかもしれませんが、いったんある水準に到達すると、そこから先は最終目標まであっという間です。燃料のテクノロジーだけでなく、各種政策の実施、機体やエンジンのテクノロジーが揃えば、10年から15年後には従来の燃料の混合ゼロの100%のSAF利用が本格的に加速するでしょう。」

家族との移動用にエタノールを混合した燃料で走るステーションワゴンを何年も使ってきた方なら、現在生産されているバイオ燃料の大半はトウモロコシをはじめとする数種類の農作物由来であることをご存知でしょう。ですが、アンダックが率いるチームは、そのほかに60種類ものさまざまな脂肪分、油、グリースを含む原料も調査中です。「私たちはいま家庭ごみや汚泥などの廃棄物の処理過程で発生する物質や糖類やアルコール類などについても話し合っています。また大気中から、あるいは航空業界におけるカーボンキャプチャーも検証していきます。最終的には、ごく少量だったり、特定の地域でしか産出されない限られたものであっても、あらゆる物質が何らかの役に立つ可能性があります。SAFの作り方は一律ではなく、よりローカライズされたソリューションになるでしょう」とアンダックは説明します。

SAFの分野では、これまでにASTMインターナショナル(ASTM International、旧American Society for Testing and Mate)が認定した7つの技術的な方法があります。これらの中には、アルコールのオリゴマー化やフィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)合成触媒と呼称される技術が含まれ、原材料をSAFに合成する方法を示しています。こうして出来たSAFを従来のジェット燃料に混ぜ込むことで、現在は50%を超えない混合燃料として使用可能ですが、アンダックはそれをいずれは100%にしたいと考えています。そのためにより多くのSAFの生産方法を認定する活動とも並行し、SAFの混合比100%を目指すASTMタスクフォースの議長も務めています。

アンダックがこうした技術の中で、最も期待を寄せているものの一つがPtL(Power-to-Liquid)と呼ばれる製造技術で、高いCO2削減効果が期待できるものです。これは再生可能エネルギーを利用して、水を水素と酸素に分解し、得られた水素と回収したCO2を使って液体炭化水素燃料(注:炭化水素は石油や天然ガスの主成分でもあります)を合成するものです。現在のところ、PtLはコスト面でまだ割高ですが、長期的なソリューションとしても大いに期待されています。

燃料のライフサイクル全体を考慮すると、石油からSAFに切り替えることで航空業界は燃料のCO2排出量を最大80%削減することができます。さらにPtLをカーボンキャプチャー技術や液体水素燃料と組み合わせることで、将来的にはこの数値を100%にまで引き上げることも可能になるでしょう。

どんな原料を、またはどのような方法を用いるにしても、何十年にもわたって旅客機の燃料として利用されてきたJet AやJet A-1燃料(いずれも高度に精製されたケロシン系のジェット燃料種別)とは化学組成上区別できないレベルの製品を作り出すことが可能であるという点が重要なのです。

アンダックはSAFと従来のジェット燃料の違いについて次のように説明します。「分子構造を解析しても特定の分子がどこから由来するかは判別できないでしょう。SAF混合燃料はいったん工業規格に適合すると、それはJet AおよびJet A-1燃料として認定され、従来型燃料を代替できます。つまり、他のJet AおよびJet A-1燃料と混合しても、同一製品として認識され、エンジンは違いを検知せず正常に動作します。したがって、SAF燃料を利用する場合でも新たな保守整備作業は不要なのです。」

とは言え、この取り組みが実を結ぶには、研究者から機器メーカー、原料生産者に至るまで、携わるすべての人材がそれぞれの役割を果たす必要があるとアンダックは言います。バイオ燃料が従来のジェット燃料と同等の価格帯となるにはまだほど遠いからです。「燃料費は航空会社にとって最大の事業経費を占め、事業コストの20%に達する場合もあります。これは航空会社にとって切実な課題なのです。SAFと従来のジェット燃料の価格差を埋めるためには、SAFの生産をさらに拡大する必要があるのです」とアンダックは説明しています。

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