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伝説のヘリコプター・エンジン、持続可能な航空燃料で再び大空へ

ピーター・C・ベラー

2019年に豪華客船バイキングスカイが救難信号を発した際、救助のために現場海域に派遣されたのは米国シコルスキー社製S-92ヘリコプターでした。S-92のクルーたちは25フィート(約7.6m)の高波と強風の中、客船がもたもたと港に戻るまえに479人の乗客を船から搬送することができました。このように、この頼もしいヘリコプターにできないことはほとんどないようです。救援活動以外にも、S-92は石油作業員を沖合の洋上掘削リグに送り届け、国境のパトロールも担い、まもなく米大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」の後継機としても運用が開始される予定です。2021年には、打ち上げ後に宇宙から落下してきたブースターロケットをS-92が空中回収するという離れ業もやってのけています。

この、どこにでもかけつける『go-anywhereヘリコプター』として活躍するシコルスキーS-92にはGE Aerospace製CT7-8Aターボシャフトエンジン2基が搭載されていますが、これは1970年代後半の導入以来、累積飛行時間が1億時間を超えるこのクラス随一のエンジンです。そして今、低炭素の未来に向けた航空業界の努力の新たな兆しが見えてきました。その取り組みとは、CT7エンジンのメンテナンス・修理・オーバーホール(MRO)作業中に、SAF(持続可能な航空燃料)と従来のジェット燃料の混合燃料を使用するというもので、従来からS-92およびイタリア・レオナルド社製ヘリコプターAW189/AW149がそれぞれ搭載するCT7エンジンの保守サービスを担ってきたスペイン企業ITP Aeroで行われます。最近始まったこの取り組みは、ITP AeroのCO2排出量の削減に貢献し、商用航空事業にSAFがさらに取り入れられるよう推進することを目的としています。

ことし7月、ITP Aeroはスペインのアルバセテにある同社施設で、SAFと従来のジェット燃料の混合燃料を用い、GE Aerospace社製CT7-8F5エンジン(下画像)のテストに成功しました。トップ画像:シコルスキーS-92ヘリコプター。画像提供:ロッキード・マーティン、ITP Aero、GE Aerospace

これを受け、GE Aerospaceの商用ターボシャフトエンジン担当ディレクターのエリッサ・リーは次のように述べています。「GE AerospaceはCT7エンジン・ファミリーがスペインにあるITP Aeroの組立・メンテナンス施設においてSAFを使用すると発表しました。これは、よりサステナブルな航空産業をサポートするためGEは継続して取り組むという姿勢を表すものです。」

GE AerospaceとITP Aeroは両社とも、航空機やヘリコプターのエネルギー転換を見据え、低炭素な未来を切り開くことに取り組んできたという背景があります。そうした中、CT7エンジンのメンテナンス中にSAF混合燃料を使用するというイニシアティブが生まれたのです。SAFはバイオマス、藻類、油脂、さらには回収されたCO2や水素など、さまざまな原料から生成することができます。遡れば、CT7エンジンの原型エンジンT700がSAFを使用した初飛行は2010年というかなり前のことです。今日、その派生モデルとして開発されてきたすべてのCT7エンジンは、SAFと従来の航空燃料を50%まで混合して使用することができます。実際CT7以外でも、今日GE Aerospaceとそのパートナーが製造するすべてのジェットエンジンは、認証済みSAF混合燃料で運用することが可能です。GE Aerospaceはさまざまなエンジンで100%SAFのテストに成功しています。

CT7エンジンのセールスポイントとしていつも挙げられるのは、メンテナンスが容易であるという点です。とは言え、CT7のチューンアップが必要な場合は専門施設に送られます。例を挙げると、スペインのラ・マンチャ地方にあるドンファン川のほとりにムーア人がやってきてできた町として知られるアルバセテにあるITP Aeroのような専門施設です。すべてのエンジンは運航に戻す前に、トライアルを行って動作確認し認証する必要があるからです。

リーによれば、この変化を後押ししているのは、商用ヘリコプターの所有者が運航におけるカーボンインテンシティ(炭素強度:企業の売上高あたりのCO2排出量)を削減するよう求めていることが挙げられます。そして軍も、CO2排出量の削減を求めています。さらにリーによると、アルバセテにおけるSAFの最初の使用例には、スペイン空軍のNH-90ヘリコプターに搭載される新型CT7エンジンの認証の際に用いる燃料が含まれるといいます。

リーは次のように語ります。「これは、ビジネスにとっても世界にとっても正しい道なのです。」

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