
GEが掲げる「3倍」という大志:クライメート・ウィークNYCサミット
ウィル・パルマー
ニューヨークは、立ちはだかる壁が高いほど乗り越えるためのアクションが加速化する、と言われる街です。それを思えば、9月17日から24日まで開催された今年のクライメート・ウィークNYCサミットがここ数年で最も賑わったことは驚くことではありません。エネルギー安全保障上の脅威と気候変動の影響がかつてないほどに切迫しつつあること、また、11月30日から12月12日までアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される2023年国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)がすぐ後に控えていることをふまえると、ホテルや街路だけでなく、世界中で緊迫感と行動の重要性がみられるようになっています。世界最大規模かつ最も多様性に富んだの都市の一つであるニューヨークが、エネルギー安全保障と気候変動に対して共に戦う仲間と時として密接に連携しつつも際立っているように見えます。
今回のクライメート・ウィークNYCにおいて幅広い産業界、ステークホルダー、そして国々にまたがって浮かび上がったテーマのひとつが「3x」、つまり2050年までに現在の「3倍」のペースでクリーンエネルギーとテクノロジーの導入を加速させるというイニシアティブでした。GEは、政府、NGO、業界のステークホルダーとのコラボレーションのもと、気候およびエネルギー対策という変革の時代における自らの歩みを加速させながら、いくつかの3倍イニシアティブの立ち上げを支援できたことを誇りに思っています。
3X for Nuclear(原子力を3倍に)
今年のクライメート・ウィークNYCは、最近立ち上げられた「ネットゼロ原子力(Net Zero Nuclear=NZN)」が2050年までに原子力発電容量を3倍にするというイニシアティブを明らかにするなど、原子力エネルギーを大きく取り上げることで幕を開けました。このネットゼロ原子力イニシアティブは、今年のクライメート・ウィークNYCにおいてアトランティック・カウンシル(注1)が主催する「原子力エネルギー政策サミット」のアジェンダとなり、UAEの首長国原子力会社(ENEC: Emirates Nuclear Energy Corporation)によって推進されたものです。このように、政府指導者と産業界との前例のないコラボレーションを呼びかける意欲的な取り組みであることから、サミットの開会のあいさつで登壇したジョン・ケリー気候変動担当米大統領特使はこの挑戦的なイニシアティブを讃えました。
注1:アトランティック・カウンシルは、北大西洋条約加盟国間で平和・安全保障に関する理解を深めるために1954年に発足した大西洋条約協会を前身として、1961年に発足した米国のシンクタンク。
9月18日に開催された原子力政策サミットで登壇するジョン・ケリー大統領特使(気候変動問題担当)。画像提供:アトランティック・カウンシル。 トップ画像: Shutterstock
ケリー特使は次のように語りました。「米国は現在このように、経験と現実を踏まえた原子力エネルギーの導入を加速することにコミットしています。クリーンエネルギーへの転換を加速させたいと願っている国や企業のための先駆的なプラットフォームである『ネットゼロ原子力』イニシアティブの立ち上げを大変喜ばしく思います。」
今回提案された目標を達成するには、年間平均40GWの新たな原子力容量の上乗せが必要となります。これは、過去10年間の6倍以上のペースとなります。そのため、GE Vernova傘下のGE Hitachi Nuclear Energy(以下GEH)は、よりサステナブルで信頼性が高く、手頃な価格の電力を供給するというトリレンマ(注2)の解決における原子力の役割を高める一助となるため、初の民間企業パートナーとして「ネットゼロ原子力」に参加しました。GEHは、小型モジュール原子炉(SMR)BWRX-300や、次世代型原子炉の研究開発を担う米国のTerraPower社とGEHのテクノロジーであるナトリウム冷却高速炉「Natrium」などの先進的な原子力技術に投資し、カーボンフリーで柔軟かつ迅速な起動が可能な電力創出力を提供するとともに、各国のエネルギー安全保障目標の達成を支援しています。
注2:エネルギーのトリレンマ:「エネルギーの安定供給(Energy Security)」、「経済効率性(Economic Efficiency)」、「環境への適合(Environment)」の3つを同時に達成する難しさを表す
翌19日の原子力政策サミットでは、GEのチーフ・サステナビリティ・オフィサーのロジャー・マルテラが「原子力の次世代テクノロジーの設計」に関するディスカッションに登壇しました。マルテラは、明日の原子力ソリューションに取り組む他の3社(米国の先進的原子炉開発企業Oklo、TerraPower、SMRの技術開発を担う米国のX-energy)の幹部とともに、原子力発電が気候変動問題のパズルを解く重要なピースとなるべく過去2年間に進展したこと、そして企業間、民間企業と政府間の協力の重要性を強調しました。GEHのBWRX-300のようなテクノロジーは、オンタリオ州、ポーランド、テネシー州のプロジェクトですでに導入が計画されており、「このテクノロジーはこれから稼働するものであり、非常にサステナブルなものである」ことを実証するものとなります。
「原子力の次世代テクノロジーの設計」ディスカッションにて(向かって左から):日本の電気事業連合会ワシントン事務所チーフアナリストのザック・デュベル氏、TerraPower社長兼CEOのクリス・ルベスク氏、GEチーフ・サステナビリティ・オフィサー兼GE Vernova政府関係・サステナビリティ担当バイスプレジデントのロジャー・マルテラ、Okro共同設立者兼COOのキャロライン・コクラン氏。画像提供:GE
マルテラは11月下旬に開催されるCOP28に向けて、「原子力がCOP28関連記事の見出しになるのは間違いないと考えている」と付け加えました。
マルテラは次のようにも語りました。「私たちにとって鍵となるのは、原子力の進歩が気候変動にとって素晴らしいものであることをきちんと伝えることです。事態は急を要しており、気候変動対策として原子力を取り入れる必要があります。と同時に、原子力はさらなる電化や、エネルギー安全保障に向けた切り札でもあり、それに伴うその他の経済的機会すべての恩恵ともなります。つまり、クリーンエネルギー経済をより確固たるものにします。加えて、こうしたテーマに関するメッセージを私たちはすべて同時に発信しなければならないと思いますが、それらのメッセージはすべて真実であり、真摯なものであると理解していただくことも必要なのです。」
3X for Renewables(再生可能エネルギーを3倍に)
クライメート・ウィークNYCサミットの幕開けとなる「3倍」の表明は原子力だけではありませんでした。9月18日はまた、「3xRenewables by 2030」キャンペーンを立ち上げた日でもありました。このキャンペーンは、ベルギーに本拠を置くGlobal Renewables Allianceが先頭に立ち、企業価値12兆ドルに相当する世界中の企業や組織に行動を呼びかけるものです。GEのエネルギー事業のポートフォリオを結集するGE Vernovaは今週、このイニシアティブに参加したことを明らかにしました。
3xRenewablesは、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のWorld Energy Transitions Outlook 2023にインスパイアされたもので、「地球温暖化を1.5℃に抑えるための喫緊な軌道修正」に応えるべく、「世界の再生可能エネルギー総発電容量を2030年までに3倍の少なくとも11,000GWに増強し、エネルギー効率の改善率を2倍にする」ことを求めています。
「ネットゼロ原子力」署名式にて、向かって左から:ENEC最高経営責任者兼マネージング・ディレクターのモハメド・アル・ハマディ閣下、世界原子力協会(WNA)事務局長のサマ・ビルバオ・イ・レオン氏、そしてロジャー・マルテラ。画像提供: GE
この3xRenewablesグループが提案する方針は、現在の状況から毎年、新たな風力発電エネルギーをほぼ4倍に、水力発電の設備容量を21%増加させ、新たな太陽光発電容量を3倍にすることが含まれています。
Global Renewables Allianceのブルース・ダグラスCEOは次のように説明しています。「COP28交渉開始まであと3か月を切りました。国連事務総長がいうところの『気候行動において飛躍的な前進(quantum leap in climate action)』に対して、準備が整っていることがお分かりになるでしょう。」
3X for Climate Action(気候行動を3倍に)
サミット期間中、GEのリーダーらは、カナダ、コートジボワール、イラク、ナイジェリア、ベトナム、ウクライナ、アラブ首長国連邦、英国、米国、ジンバブエの政府、お客様、NGOと会談しました。これにより、気候変動目標の達成に貢献できるよう、パートナーシップや協力を通じてアクションが進められることを示しました。
クライメート・ウィークNYC期間中、気候変動対策のための炭素市場ソリューションを開発・提供する企業であるClimate Impact Partnersは「Commitment Issues: Markers of Real Climate Action in the Fortune Global 500」と題された報告書を発表しました。
この報告書は世界最大手企業500社(そのうち44%がアジア、31%が北米、21%が欧州に拠点を置く。500社の売上高は合計で41兆ドル)を調査し、CO2排出量削減の進捗状況を評価しました。同報告書が示した教訓的なデータの1つは、「CO2排出量を前年比で削減した企業は、フォーチュン・グローバル500の同業他社よりも平均して1社あたりの利益が10億ドル近く多い」ということでした。
Climate Impact Partnersはこの報告書に、GEのマルテラを含む、最も大きな影響を与えた大企業のチーフ・サステナビリティ・オフィサー4人とのインタビューも載せています。インタビューでマルテラは次のように語りました。「2030年までに、サステナビリティと気候変動のソリューションを自社の事業計画と事業オペレーションにうまく組み込むことができる企業は、競争上の優位性を獲得できるようになるでしょう。」マルテラのチーフ・サステナビリティ・オフィサーの重要性に関する見解と報告書全文はこちらから閲覧可能です(英語のみ)。
ドバイを拠点とする『Gulf Business』誌は、UAEで開催されるCOP28を今年末に控え、マルテラのインタビューも掲載しました。マルテラは、同インタビューでUAEを「気候変動、脱炭素化、エネルギー転換の有力なグローバル インフルエンサーとして急速に台頭している」国であり、「脱炭素化とイノベーションの推進において、リーダーシップ、投資、イニシアティブを発揮している」国であると評価しました。
マルテラは次のように述べています。「今年のCOP28はパリ会合以来最も重要なCOPになる可能性があるでしょう。『政策的トーク』から『ビジネスアクション』へ動きを転ずるモメンタムが高まっているからです。私たちは、結果や成果にフォーカスを当てるという方向性の再調整を目の当たりにしているのです。つまり、今こそ気候変動対策を、リスクではなくチャンスとして再定義すること、そして、官民パートナーシップの方向性も修正し、短期的にも長期的にも、新たな方向性を見据えた成果の達成を重視するモメンタムが醸成されつつあるのです。」