
3DプリンターはここまできたーーGEの“本気の”積層造形ラボ 『アディティブ・テクノロジー・アドバンスメント・センター(CATA)』内部を大公開!
編集部注)
本記事は買収計画を発表した時点のものです。
その後、GEはここに記述のあるSLM社の買収は中止し、代わりにコンセプト・レーザー社の過半数株を取得しています。
数年前まで「一部の愛好家が、趣味の作業台において楽しむもの」という認識が一般的だった3Dプリンター。今や、GEを含め製造業の企業に大インパクトをもたらす重要な意味を持つツールになっています。
9月6日(米国時間)、GEは、産業用3Dプリンターを手掛けるスウェーデンのアーカム(Arcam)とドイツのSLMを合計14億ドルで買収する計画を発表しました。GEはすでに航空機エンジン用の燃料ノズルを3D金属プリントして製造しており、次世代航空機Boeing 737 MAXに搭載されるCFMインターナショナル製エンジン「LEAP」に採用します。この3Dプリント技術活用を全社の事業に展開する計画を進めてきたGEは、この買収によりその動きを加速するだけでなく、3Dプリント技術(=積層造形技術)のキー・サプライヤーとして業界に技術提供していくことを考えています。
SLMの3Dプリンターは、1つまたは複数のレーザー光線を用いて非常に細かな金属粉を1インチあたり1,250もの層に重ねながら結合させ、必要な形状を造り上げます。アーカムの技術はレーザーの代わりに電子ビームを用いることで、たとえばチタンアルナイド(TiAl)のような高強度ではあるものの扱いの難しい素材も積層造形に適用することを可能にします。
GEが3D金属プリントで製造した燃料ノズル
Boeingの次世代旅客機737MAXに搭載される航空機エンジン「LEAP*」に採用する
*GEとスネクマの合弁企業、CFMインターナショナル製(写真:GE Aviation)
ところでGEは、3Dプリント技術のことをアディティブ・マニュファクチャリング・テクノロジー(積層造形技術)と呼んでいます。今日は、GEが約4,000万ドルを投じて今年4月に開設した新施設『アディティブ・テクノロジー・アドバンスメント・センター(以下、CATA)』の様子を一挙に大公開。3Dプリント技術活用に対するGEの本気度を感じていただけるでしょうか。
壁、ピカピカの床、そこにずらりと並ぶレーザー3Dプリンターの中では、ジェットエンジンのブレードからオイルバルブに至るまであらゆるものが静かに作り続けられる音・・・。CATA内部の真っ白な光景は、はスタンリー・キューブリックの映画作品のセットさながら。
CATAが位置するのは、かつては製鉄産業で栄えたピッツバーグ。米国の産業の浮き沈みを反映してきたこの町は、いったん廃れたかに見えましたが、近年は科学や研究、教育に注力する町として生まれ変わりました。ロボット工学研究で名高いカーネギーメロン大学に加え、グーグル、テスラ・モーターズなどもオフィスを構え、フィップス温室植物園には“世界一持続可能”な建物が建てられるなど、活気を取り戻しています。
最上部の画像:フル装備の積層造形エンジニア、ブライアン・アドキンス
上の画像:燃料ノズル内部の複雑な形状
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
CATAの運営を担うジェニファー・チポラは言います。「金属部品を作るとき、普通は金属塊を切断し切削しますね。削りカスなどの廃棄物もたくさん出てしまいます。一方、積層造形なら金属粉末や砂、その他の素材を無駄なく使うことができますし、プリンター内に余った材料もほぼすべて回収できるので廃棄物がほとんど出ません。内部形状が複雑で製造難度が高いものや、従来なら高額な加工コストがかかっていたものも簡単に製造できるうえ、一体形成なので強度や品質も向上するんです」
たとえば、GEアビエーションではジェットエンジンの部品を、GEオイル&ガスではバルブを、3Dプリンターで生産しています。CATAの開設にあたっては、積層造形技術の向上はGEの中心(センター・オブ・エクセレンス)で行うという発想に基づき、社内の多様な事業部門が資金を拠出しました。「CATAのミッションは、積層造形をGEのあらゆる事業の標準技術にすること。共通化することで、各事業の開発コスト負担を軽減できますし、個別に投資するよりずっと速く、全社的にテクノロジーを促進できますからね」
CATAの3Dプリンターは1度に4種のポリマーを利用できる(うち1つはサポート材に使用)ので
このようなサンプルも作ることも可能(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
積層技術にはまだまだ課題があるのも事実だとチポラは言います。すでに3Dプリンターで非常に洗練された燃料ノズルを作ることがでる一方で、「ほとんどの3Dプリンターは最終製品を作るレベルにはないのが現状。GEはこの分野のイノベーションの先頭に立って可能性を広げ、産業化を進めようと考えているんです」とチポラ。CATAが別名「産業化ラボ」と呼ばれる理由です。GEの各事業部門はここに3Dデザインを持ち込み、CATAの助けを得ることで、試験制作から本格生産開始までのプロセスを最短化することがでるというわけです。チポラと彼女のチームは専門的見地から、3Dデザインを最適化し、実生産を想定するシミュレーションをサポートします。
CATAのDMLM 3Dプリンターは、コバルトクロム合金や高温合金のインコネル、
ステンレス鋼からも部品を作ることが可能(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
CATAの直接金属レーザー溶解(以下、DMLM)は、CADの設計ファイルを1層1層分析し、レーザーで金属粉末の薄層を次々重ねて正確なパターンを形成します。各層の厚さは20~80ミクロンで、1インチに積み上げられる総数はなんと1,250層、人間の毛髪よりも薄い層を大量に積み上げて造形しています。また、そのレーザー出力は400ワット~1キロワットで、壁に穴を開けることもできるほど。「溶接にそっくりですけど、やっていることのサイズは顕微鏡レベルですよ」とマシンを管理する積層造形エンジニアのブライアン・アドキンスは説明します。
「ゼリーを流し込む型を作っているようなもの」と言いながら
砂結合剤噴射マシンを操作中のエンジニア、デーブ・ミラー
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
DMLMが大量生産用に利用されるのに対し、砂結合剤噴射マシンは画期的なラピッドプロトタイピング(高速試作)ツールとして活用されています。砂結合剤噴射マシンでは、レーザーの代わりに化学結合材を用いて、細かい砂で鋳型を積層造形する機械で、280ミクロンという厚さの各層に触媒を添加していきます。2種類の化学物質を混合すると発熱反応が起きて、思い通りの形状に砂が固まるというわけ。このマシンを操作するエンジニアのデーブ・ミラーはこう言います。「“Jell-O(米国家庭で親しまれているフルーツ・ゼラチンミックス)”を流し込むゼリー型を作っているようなものだよ。時間が経つにつれ、砂型がどんどん堅くなる。まるでコンクリートみたいにね」
ミラーは複雑な鋳型もたった1日で造形し、翌日には工場へ渡します。「この技術によって、ラピッドプロトタイピングは劇的に進化していきますよ。同じ事をするのに、これまでなら数千ドルのコストと何週間もの時間がかかっていた。ところが、この3Dプリンターのおかげで、コスト削減とリードタイムの短縮が両立できるようになったんです」
ポリジェット方式の3Dプリンターはポリマー層をUVライトで硬化させる
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
そして、最後に紹介する3Dプリンターは、ポリマー材で造形するタイプ。液体樹脂で層を作り、UVライトを照射して固めます。このマシンでは、サポート材1種を含め計4種類のポリマーを同時に造形することが可能。ポリマーを組み合わせて造形できるので、素材にさまざまな質感や色合いを持たせることも可能。マシン管理を担当するエンジニアのエド・ローリーは「素材を上手に活用する”レシピ本”があるんです。エラストマー(常温でゴム状弾性を有する物質)から硬質プラスチックまで、どんな素材でも造形できますよ」と話します。
このマシンは、試作から仕上げ細工まで利用可能です。ローリーは先日、GEのスタートアップ企業であるCurrentがデザインしたLEDシャンデリアをこの3Dプリンターで製作しました。このシャンデリアは現在、CATAのロビーに飾られています。
引き続き、CATAの内部を写真でご紹介しましょう!
DMLMレーザープリンターでは部品を一度に多量製造することが可能
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
タッチスクリーンでマシンをプログラミングするブライアン・アドキンス。
指の下に見える緑のバーは、3Dプリンティングが完了するまでの時間を表示
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
CATAの開所式でゲストに配った3Dプリンターの製品サンプル
内部のギアはちゃんと回転するようにできており、3Dプリンターなしに製作するのはまず不可能
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
3Dプリンティングで造形された金属部品はアルゴンと窒素で満たされた2つの硬化炉へ
品質リーダーのミシェル・マーウィンは「サウナに入れるようなイメージね」と説明
「造形された部品を温めてリラックスさせてあげると、バターを切るような感覚でサポート台から切り離すことができるのよ」
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
硬化炉に入れておいた部品の温度をチェック(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
造形した部品を放電加工機でサポート台から切り離す模様(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
完成品(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
交差汚染を防ぐために、残った金属粉末を回収し、DMLMを清掃するブライアン・アトキンス
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
DMLMはサポート材の上で部品を造形する(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
清掃で吸引回収した金属粉末は“こし器”に入れてリサイクル(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
防護服に身を包み、清掃準備万端のブライアン・アトキンス(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
画期的なラピッドプロトタイピング・ツールである砂結合剤噴射マシン。
レーザーの代わりに化学結合材を用いて、細かい砂で鋳型を積層造形。
280ミクロンのに各層に触媒が添加されていく
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
使われなかった砂を取り除くエンジニア。緑色の部分が造形された鋳型
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
この機械があれば、複雑な鋳型も1日で造形が可能で、翌日には工場へ鋳型を送り返すことも可能
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
マシンには、鋳型を収納するための、縦1.8m、横1m、高さ0.7mのハイテクを駆使した型枠。
「同じことをするのに、これまでは数千ドルのコストと何週間もの時間がかかっていただけど、
この3Dプリンターのおかげで、コスト削減とリードタイムの短縮が両立できる」とデーブ・ミラー
GEのスタートアップ企業、CurrentがデザインしたLEDシャンデリアの
プラスチック製の骨組みを3Dプリンターで製作するエド・ローリー
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
シャンデリア(白色)を覆うサポート材(茶色)は手ではがすことが可能
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
ポリジェット方式の3Dプリンターの前で完成品を手にするエド・ローリー
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
ポリジェット方式3Dプリンターは1度に4つのポリマーを造形可能。
組み合わせによって、柔らかいものでも堅いものでも作ることができ、数百色の色彩を表現できる
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)
来場者用のお土産もポリジェット方式3Dプリンターで造形
(画像:GE Reports/クリス・ニュー)